現代文対策問題 67

本文

大学の映画サークルで、俺はいつも照明係だった。監督志望の佐野や役者志望の華やかな連中とは違い、俺はただ、映画の現場にいるその空気が好きなだけの地味な存在だった。佐野は才能があった。あいつが撮る映画は、いつもどこか切なくてきれいだった。俺はあいつの才能に嫉妬しながらも、その一番近くで光を当てる仕事に奇妙な満足感を覚えていた。

卒業制作の映画の撮影は冬の海で行われた。凍えるような風の中、役者たちは何度も同じシーンを繰り返す。俺はかじかむ手でレフ板を握りしめ、主演の彼女の顔に柔らかい光が当たるよう微調整を続けた。

「オッケー!いいのが撮れた!」

佐野の声が響き、張り詰めていた空気がふっと緩んだ。みんなが達成感に満ちた顔で機材の片付けを始める。俺もレフ板を畳みながら安堵のため息をついた。その時だった。

「高橋」

佐野が俺の隣に来ていた。

お前の光がなかったら、今のシーンは撮れなかった。サンキュな

彼はそれだけ言うと、もう他のスタッフとの打ち合わせに戻っていった。俺はその場に立ち尽くしていた。いつも監督として全体の指示を出しているあいつが、俺だけを見てそう言った。俺が当てていた光。それは映画の中では誰にも気づかれない、当たり前の光だ。でも、あいつは分かってくれていた。それだけで十分だった。冷たい潮風が、なぜか少しだけ温かく感じられた。


【設問1】傍線部「お前の光がなかったら、今のシーンは撮れなかった。サンキュな」という佐野の言葉を聞いた時の「俺」の気持ちとして最も適当なものを次の中から一つ選べ。

  1. 自分の仕事が監督から正当に評価されたことへの驚きと深い満足感。
  2. 才能ある佐野から認められたことで、自分も監督になれるかもしれないという新たな希望。
  3. これまで佐野に対して抱いてきた嫉妬の気持ちが一瞬で消え去り、友情が芽生えたことへの感動。
  4. 社交辞令だと分かっていながらも、優しい言葉をかけてくれた佐野への感謝と少しの寂しさ。
【正解と解説】

正解 → 1

  • 1. 俺は自分を「地味な存在」だと認識しており、照明係という仕事も表舞台に出るものではありません。そんな彼にとって、監督である佐野からの直接的で具体的な感謝の言葉は予期せぬものでした。「立ち尽くしていた」という描写は、その驚きの大きさを物語っています。自分の仕事が作品にとって不可欠なものであったと才能ある監督本人から認められたことで、彼はこれまでの苦労が報われるような深い満足感を得たのです。
  • 2. 「監督になれるかもしれない」という将来の希望までは読み取れません。この瞬間の気持ちが問われています。
  • 3. 「嫉妬」はあったかもしれませんが、この言葉だけで「消え去り、友情が芽生えた」とまで断定するのは飛躍しています。
  • 4. 佐野の言葉は具体的なシーンに言及しており、単なる「社交辞令」とは考えにくいです。俺も本心からの言葉として受け止めています。

【設問2】この物語における「光」は、主人公の「俺」にとって、どのような意味を持つものとして描かれているか。最も適当なものを次の中から一つ選べ。

  1. 主役を引き立てるための単なる技術的な道具。
  2. 監督や役者といった才能ある人々への嫉妬の象徴。
  3. 目立たなくても、作品作りには不可欠な自分の役割とささやかなプライドの象徴。
  4. いつか自分が脚光を浴びる舞台に立ちたいという願望の比喩。
【正解と解説】

正解 → 3

  • 1. 「単なる道具」ではなく、佐野の言葉によって作品の質を左右する重要な要素であることが示されました。
  • 2. 「嫉妬」は佐野に対して抱いている感情であり、「光」そのものに向けられたものではありません。
  • 3. 照明係の仕事は、映画を見る観客からその働きを意識されることはほとんどありません。その意味で「目立たない」仕事です。しかし、佐野の言葉通り、その光がなければ決定的なシーンは撮れませんでした。俺自身もその仕事に「奇妙な満足感」を覚えていました。このように「光」は、華やかではないけれど作品を根底で支える彼の地味な役割とその仕事に対する彼の誠実なプライドを象徴していると言えます。
  • 4. 彼が「脚光を浴びたい」と願っているという描写は本文にはありません。

レベル:大学入学共通テスト対策|問題番号:67