現代文対策問題 66

本文

幼い頃、夏になると母方の実家がある海辺の町で過ごした。祖父はもう亡くなっていたが、祖母は一人、古い木造の家で元気に暮らしていた。祖母の家で、僕が一番好きだったのは、縁側だった。そこで寝転がって、庭の大きな柿の木を眺めていると、時間が無限にあるような気がした。

ある夏の午後、いつものように縁側でまどろんでいると、台所から祖母が僕を呼ぶ声がした。
「タカシ、ちょっとおいで。いいものを見せてあげる」
行ってみると、祖母は大きなガラスの瓶を抱えていた。中には、色とりどりの角砂糖が入っている。赤、青、緑。宝石のようにキラキラと光っていた。
「きれいだろう。昔、じいちゃんが外国のお土産に買ってきてくれたんだよ。もったいなくて、ずっと食べられずにいるんだ」
祖母は、本当に嬉しそうに、その瓶を眺めていた。僕には、それがただの砂糖の塊にしか見えなかった。食べもしないのに、どうしてそんなに大事にしているのだろう。子供心に、不思議でならなかった。

それから何年も経ち、祖母は亡くなった。家の片付けに行った時、僕は台所の棚の奥に、あのガラス瓶を見つけた。中の角砂糖は、少し色褪せていたけれど、相変わらずきれいたった。僕は、その瓶を、自分のカバンにそっとしまった。東京に帰る電車の中で、僕は瓶を膝の上に置き、窓の外を流れる景色を見ていた。今なら、少しだけ、分かる気がする。祖母が、この砂糖を食べなかった理由。そして、これを、宝物だと言った、その気持ちが。


【設問1】傍線部「僕は、その瓶を、自分のカバンにそっとしまった」とあるが、この時の僕の心情として、最も適当なものを次の中から一つ選べ。

  1. 祖母の唯一の形見として、何よりも大切に保管しようという責任感。
  2. 子供の頃には理解できなかった、祖母の想いを、今度は自分が受け継いでいきたいという気持ち。
  3. 美しい角砂糖を、ようやく自分のものにできるという、長年の願望が満たされた喜び。
  4. 祖母の遺品を整理する中で、感傷的な気分になり、思わず手に取ってしまったという、衝動的な行動。
【正解と解説】

正解 → 2

  • 1. 「責任感」という義務的な感情よりは、もっと自発的で、心情的なつながりが感じられます。
  • 2. 子供の頃の僕は、食べもしない角砂糖を大事にする祖母を「不思議でならなかった」。しかし、大人になった今、彼は「祖母がこの砂糖を食べなかった理由」が分かると感じています。それは、この瓶が単なる砂糖ではなく、亡き祖父との思い出そのものだからです。僕がこの瓶を持ち帰るのは、その思い出と、物を大切にする祖母の心を、今度は自分が引き継いでいこうという、成長の証なのです。
  • 3. 「自分のものにできる喜び」という所有欲は、この文脈ではふさわしくありません。
  • 4. 単なる「衝動」ではなく、最後の文章にあるように、祖母の気持ちを理解した上での、意味のある行動です。

【設問2】この物語において、ガラス瓶に入った角砂糖は、何を象徴しているか。最も適当なものを次の中から一つ選べ。

  1. 消費されることなく、ただ、眺めるだけの、空虚な美しさ。
  2. 亡くなった人との、記憶と、愛情が、宿った、かけがえのない宝物。
  3. 世代から世代へと、受け継がれていくべき、家の、伝統。
  4. 海外への、憧れと、古き良き時代への、ノスタルジア。
【正解と解説】

正解 → 2

  • 1. 祖母や僕にとっては「空虚」なものではなく、意味に満ちています。
  • 2. この角砂糖は、祖母にとっては亡き夫(じいちゃん)が買ってきてくれたという、愛情の記憶そのものです。だからこそ「もったいなくて」食べることができませんでした。そして、その瓶は、祖母が亡くなった後、今度は僕にとって、祖母と過ごした夏の日の思い出と、彼女の優しい心を象徴するものとなります。このように、角砂糖は、今はもういない大切な人との絆を象徴する、宝物として描かれています。
  • 3. 家の「伝統」というほど、大げさなものではなく、もっと個人的な思い出の品です。
  • 4. 「海外への憧れ」というよりは、亡き夫との個人的なつながりが中心です。

レベル:大学入学共通テスト対策|問題番号:66