現代文対策問題 40

本文

その日、私は、古い友人の結婚式に出席していた。純白のドレスをまとった彼女は、本当に綺麗だった。披露宴の途中、新郎新婦の生い立ちを紹介するスライドショーが始まった。幼い頃の写真、学生時代の写真。その一枚一枚に、会場からは、温かい笑いや、歓声が上がる。

私の知らない彼女の姿が、次々と映し出されていく。私と出会う前の彼女。私が知っている彼女は、彼女の人生の、ほんの一部でしかなかったのだ。当たり前のことなのに、私は、その事実に、少しだけ、寂しいような気持ちになった

スライドショーの最後に、一枚の写真が、大きく映し出された。大学の卒業式の日に、私と彼女が、満面の笑みで肩を組んでいる写真だ。すっかり忘れていた、一枚の写真。しかし、それを見た瞬間、様々な記憶が蘇ってきた。二人で夜通し語り明かしたこと。くだらないことで笑い合ったこと。喧嘩したこと。その全てが、この一枚に凝縮されている。

司会者が、私の名前を呼んだ。「新婦の、一番の親友でいらっしゃいます」。私は、マイクの前に立った。何を話そうか、考えていたスピーチは、頭から飛んでしまった。ただ、込み上げてくる熱い思いに任せて、私は、彼女との思い出を語り始めた。私たちの時間は、誰にも真似できない、かけがえのない宝物なのだ。


【設問1】傍線部①「私は、その事実に、少しだけ、寂しいような気持ちになった」とあるが、それはなぜか。その理由の説明として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。

  1. 自分の知らない友人の過去の写真が、自分より楽しそうに見え、嫉妬心を感じたから。
  2. 友人の人生において、自分が思うほど、自分は大きな存在ではなかったのかもしれないと感じたから。
  3. 友人が、自分に隠れて、他の友人とばかり、楽しい時間を過ごしていたことを知ったから。
  4. 友人が結婚することで、自分との関係が疎遠になってしまうのではないかという、未来への不安を感じたから。
【正解と解説】

正解 → 2

  • 1. 「嫉妬心」という、他者への攻撃的な感情は読み取れません。寂しさは、もっと内面的なものです。
  • 2. 「私と出会う前の彼女」「私が知っている彼女は、彼女の人生の、ほんの一部でしかなかった」。この当たり前の事実に直面した時、親友である彼女のことを全て知っていると思っていた自分の思い込みが崩れます。そして、広大な彼女の人生全体から見れば、自分の存在は相対的に小さくなる。そのことに、一抹の寂しさを感じたのです。独占欲に近い、親しい相手だからこそ抱く繊細な感情です。
  • 3. 「自分に隠れて」いたわけではありません。単に、自分と出会う前の話です。
  • 4. この時点での寂しさは、「未来への不安」ではなく、スライドショーによって突きつけられた「過去の事実」に対するものです。

【設問2】傍線部②「込み上げてくる熱い思いに任せて、私は、彼女との思い出を語り始めた」とあるが、この「熱い思い」の中核にある感情として、最も適当なものを、次の中から一つ選べ。

  1. 友人が先に結婚してしまったことへの、焦りと悔しさ。
  2. 大勢の前でスピーチをすることへの、極度の緊張とプレッシャー。
  3. 自分と友人との間で共有してきた、時間や経験のかけがえのなさへの、強い実感。
  4. これから始まる友人の新しい生活が、幸せなものになるようにという、切実な祈り。
【正解と解説】

正解 → 3

  • 1. 「焦り」や「悔しさ」といったネガティブな感情は、この感動的な場面にはそぐいません。
  • 2. 「考えていたスピーチは、頭から飛んでしまった」とあり、緊張はしているかもしれませんが、スピーチを始めた動機は、緊張とは別の、もっとポジティブな感情です。
  • 3. 少し前に感じた「寂しさ」は、最後に映し出された自分たちの写真によって、一変します。「二人で夜通し語り明かしたこと」などの具体的な記憶が蘇り、「その全てが、この一枚に凝縮されている」と感じます。そして、「私たちの時間は、誰にも真似できない、かけがえのない宝物なのだ」という確信に至ります。この、自分たちの友情の価値を再認識したことによる、強い感動こそが、「熱い思い」の中核です。
  • 4. 「祈り」も含まれるでしょうが、スピーチの内容が「彼女との思い出」であることから、中心は、過去を振り返っての実感です。

【設問3】本文における「一枚の写真」が果たした役割についての説明として、最も適当なものを次の中から一つ選べ。

  1. 友人の知らない一面を見せつけ、「私」の心に、彼女への不信感を植え付けた。
  2. スライドショー全体の流れを断ち切り、披露宴の雰囲気を、気まずいものに変えてしまった。
  3. 「私」に、忘れていた友人との絆を再確認させ、彼女へのスピーチの内容を決定づけた。
  4. 「私」と友人の間に、埋めがたい時間の隔たりがあることを、残酷なまでに突きつけた。
【正解と解説】

正解 → 3

  • 1. 「不信感」ではなく、むしろ、信頼や愛情を再確認させています。
  • 2. 「気まずいものに変えた」のではなく、感動的なクライマックスを演出しています。
  • 3. スライドショーの前半で、友人の知らない過去を見て少し寂しくなっていた「私」ですが、最後に自分たちが写った「一枚の写真」が映し出されたことで、「様々な記憶が蘇り」、友情が「かけがえのない宝物」だと再認識します。そして、その思いに任せてスピーチを始めることから、この写真が、感傷を感動に変え、スピーチの方向性を決定づけた、重要な役割を果たしたことがわかります。
  • 4. 「隔たり」を突きつけたのは、スライドショーの前半部分です。この最後の写真は、むしろ、その隔たりを越える絆の象徴として機能しています。

【設問4】本文の内容と合致するものを、次の中から一つ選べ。

  1. 「私」は、友人の結婚を、最初から素直な気持ちで祝福することができていた。
  2. 披露宴で流されたスライドショーには、「私」が写っている写真は一枚もなかった。
  3. 「私」は、友人代表のスピーチを、事前に準備していた原稿通りに、完璧にこなした。
  4. 「私」は、友人と過ごした時間が、何物にも代えがたい大切なものであると、スピーチの直前に再認識した。
【正解と解説】

正解 → 4

  • 1. 「少しだけ、寂しいような気持ちになった」とあり、「最初から素直な気持ちで」とは言えません。
  • 2. 「私と彼女が、満面の笑みで肩を組んでいる写真だ」と、自分が写っている写真が最後に映し出されています。
  • 3. 「考えていたスピーチは、頭から飛んでしまった」「込み上げてくる熱い思いに任せて」語り始めたとあり、「原稿通りに、完璧にこなした」わけではありません。
  • 4. 最後に自分たちの写真を見たことで、「私たちの時間は、誰にも真似できない、かけがえのない宝物なのだ」と再認識し、その思いに任せてスピーチを始めています。この記述は、本文の内容と合致します。

語句説明:
生い立ち(おいたち):生まれてから、現在に至るまでの経歴。
凝縮(ぎょうしゅく):物事が、内容を保ったまま、密度の高い状態にまとまること。
ささくれ:ここでは、荒れてとげとげしくなった心の状態のたとえ。
かけがえのない:代わりになるものがないほど、大切である。

レベル:大学入学共通テスト対策|問題番号:40