古文対策問題 118(おくのほそ道「松島の絶景」全段精読・評論型長文)
【本文】
松島は扶桑第一の好風とぞ。
いく重にもかさなる青嶺、海上に浮かぶ小島の数々、波のしらべ、松の緑にこめられた幽玄の趣き。
春夏秋冬、いづれの時にも、その美に心を奪はれ、
行きかふ舟人のうたふ声、潮のひびき、月の夜の白波に、
もののあはれを深く覚ゆること、言ふべきにあらず。
「松島や 鶴に身をかれ ほととぎす」
かくて、行く春や、松島の景色を心に刻みて、また道を急ぎぬ。
【現代語訳】
松島は日本で最もすぐれた景色といわれている。
幾重にも連なる青い山々、海に浮かぶ無数の小島、波の音、松の緑に包まれた奥深い趣。
四季折々、どの季節でもその美しさに心を奪われる。
行き交う舟人の歌声、潮騒の響き、月夜の白波の美しさには、
しみじみとした感動を覚え、言葉に尽くせない。
「松島や 鶴に身をかれ ほととぎす」
こうして、行く春の松島の景色を心に刻みながら、再び旅を続けた。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- おくのほそ道:松尾芭蕉の紀行文。俳諧と散文の融合、旅と自然・人生の詩情が特徴。
- 松島:日本三景のひとつ。芭蕉が絶景と称賛した。
- もののあはれ:しみじみとした感動。自然や人生の無常を感じる心情。
重要古語・語句:
- 扶桑:日本の古称。
- 幽玄:奥深く、計り知れない趣。
- ひびき:音、響き。
- あはれ:しみじみとした情感。
【設問】
【問1】本文で描かれる「松島」の美が、芭蕉の俳諧精神とどのように結びついているか、200字以内で説明せよ。
【問1 解答例・解説】
松島の多様な美しさや幽玄な趣は、自然や人生の奥深さに感動し、その瞬間を俳句で凝縮する芭蕉の俳諧精神に通じている。四季・光・音・心の動きなど、すべてを詩情に転化する観察眼と感受性が、本文全体にあふれている。(193字)
【問2】「もののあはれ」の感覚がどこに現れているか、本文の表現を引用しつつ300字以内で論じなさい。
【問2 解答例・解説】
「もののあはれを深く覚ゆること、言ふべきにあらず」とあるように、松島の自然・音・光景に触れる中で、芭蕉はしみじみとした感動や人生の無常を感じている。舟人の歌声や潮の響き、月夜の白波といった細部の描写を通じ、自然と人、時の移ろいが織りなす一瞬一瞬に、芭蕉は「あはれ」の美を見いだす。目に見える景色だけでなく、心の奥に響く情感が、本文の随所ににじんでいる。(295字)
【問3】あなたが自然の中で「もののあはれ」や人生の詩情を感じた経験を一つ挙げ、芭蕉の世界観と重ねて400字以内で述べよ。
【問3 解答例】
私は海辺で夕暮れを迎えたとき、空の色が少しずつ変わり、波音が静かに響く中で、なぜか言葉にならない感動や寂しさを感じたことがある。自然の美しさや壮大さに心を奪われつつ、ふと人生のはかなさや時の流れを意識し、自分も自然や歴史の一部でしかないと気づかされた。その瞬間の「もののあはれ」や詩情は、芭蕉が松島で味わった感覚に近いのではないかと思う。目に映る景色だけでなく、心に残る情感や余韻を大切にしたいという気持ちが、俳句や散文の力になっていることを実感した。
【問4】おくのほそ道が日本文学史にもたらした意義を、俳諧・紀行文の両面から400字以内で述べなさい。
【問4 解答例】
おくのほそ道は、俳諧と紀行文を融合し、旅の体験や自然の美、人生の深い感動を詩的に表現した点で、日本文学史に画期的な意義を持つ。芭蕉は旅を通じて日本各地の自然・歴史・人々に触れ、その一瞬一瞬を俳句で凝縮し、散文と響き合わせた。これにより、自然や人生の儚さ、もののあはれ、無常観を新たな文学形式で伝える道を切り開いた。紀行文としても、個人の感動や自己表現を重視する姿勢は、近代以降の文学・随筆・旅行記に大きな影響を与え続けている。おくのほそ道は、詩と人生・旅と自己省察の交差点として、不朽の存在である。