古文対策問題 117(徒然草「つれづれなるままに」全文精読・評論型長文)

【本文】

つれづれなるままに、日ぐらし硯に向かひて、心にうつりゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、
あやしうこそものぐるほしけれ。
この世に生きて、心のうちにさまざまの思ひや悩み、喜び悲しみの絶え間なきものなり。
されば、人の世のことは、思ひ定めがたく、無常の風に吹き払われて、
名残をもとどめぬ夢のごとくなりぬるを、
かくもの書きつつ、己が心のうちを省みるは、いと尊きことにこそあれ。

【現代語訳】

退屈なまま、一日中硯に向かって、心に浮かぶ取りとめのないことを、思いつくままに書き連ねていると、
なんとも奇妙で、物狂おしいような気分になる。
この世に生きていると、心の中にはさまざまな思いや悩み、喜びや悲しみが絶え間なく生まれる。
だからこそ、人の世のことは思い定めることが難しく、無常の風に吹き払われて、
跡形もなく消えてしまう夢のようなものになってしまう。
こうして書くことで、自分の心を見つめ直すことは、とても尊いことだと感じる。

【覚えておきたい知識】

文学史・古文常識:

  • 徒然草:吉田兼好作。鎌倉末期の随筆文学。人生・無常観・人間観察・省察の深さが特徴。
  • つれづれ:退屈、所在ないこと。創作の動機にもなる。
  • ものぐるほしけれ:狂気じみているような。

重要古語・語句:

  • よしなし事:取りとめのないこと。
  • そこはかとなく:なんとなく、はっきりした目的なく。
  • 名残をもとどめぬ:跡形もなく。
  • 己が心を省みる:自分自身の心を見つめ直す。

【設問】

【問1】冒頭「つれづれなるままに…」の書き出しが、徒然草全体の随筆的特徴をどのように象徴しているか、200字以内で説明せよ。

【問1 解答例・解説】

退屈なままに心に浮かんだことを書き連ねるという書き出しは、徒然草の随筆的な自由さ、思索の奔放さを象徴している。特定の目的や体系に縛られず、日常の感覚や人生観が自然に表現されることで、個人の省察や感受性が作品全体に色濃く現れている。(198字)

【問2】「己が心のうちを省みる」ことの価値について、現代的な観点も交え300字以内で論じなさい。

【問2 解答例・解説】

日々の忙しさや情報のあふれる現代社会では、自分の心と向き合う時間が乏しくなりがちだが、徒然草が説くように、立ち止まって自分の心情や悩みを省みることは、心の安定や自己理解に不可欠である。感情や思考を書き出すことで客観的に自分を見つめ直し、新たな発見や癒しにつながる。兼好の随筆的態度は、現代のエッセイや日記、SNSの自分語りにも通じ、自己省察の重要性を今に伝えている。(293字)

【問3】あなたが「書くことで己を見つめ直した」経験があれば一つ挙げ、本文との共通点を400字以内で述べなさい。

【問3 解答例】

私も悩みや不安が大きくなったとき、日記やエッセイを書くことで気持ちを整理し、自分の心を見つめ直すことがある。書くことで自分の感情や考えが客観的になり、漠然とした不安や悲しみの正体が少しずつ見えてくる。兼好法師が「心にうつりゆくよしなし事」をそこはかとなく書いたように、明確な答えや目的がなくても、とにかく言葉にすることで、心の中に溜まった思いを解きほぐし、前向きな気持ちを取り戻せた経験が何度もある。書くことは、単なる記録や表現を超えて、自分自身と向き合い、癒しや成長をもたらす大切な行為なのだと改めて思う。

【問4】徒然草が日本随筆文学史上にもたらした意義について、400字以内で評論的に述べなさい。

【問4 解答例】

徒然草は、枕草子と並ぶ日本随筆文学の古典であり、作者の個人的な思索や感情を、形式や主題に縛られず自由に綴った点で、後世の随筆・エッセイ文学の源流となった。日常の些細な事象から深い人生哲学まで、幅広いテーマを自在に扱い、個人の内面や省察を文学的価値として昇華したことが画期的だった。読者に共感や発見、自己省察のきっかけを与える随筆文学の可能性を大きく切り開き、現代エッセイやエッセイストの感受性にも連なる普遍的な影響を持っている。兼好の随想的態度は、日本文学に自由な表現と自己探求の精神を根付かせた。

レベル:最難関大・専門レベル|更新:2025-07-25|問題番号:117