古文対策問題 116(平家物語「祇園精舎」全段精読・評論型長文)

【本文】

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。
猛き者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。
あはれ、世の中は常ならぬものとこそ見え侍れ。

【現代語訳】

祇園精舎の鐘の音には、すべてのものが移り変わり定まらないという無常の響きがある。
沙羅双樹の花の色は、栄えたものは必ず衰えるという道理をあらわしている。
権力を誇った者も長くは続かず、それは春の夜の夢のように儚い。
勇猛な者も結局は滅びてしまい、風の前の塵と同じである。
本当に、世の中は常に変わるものであると感じられる。

【覚えておきたい知識】

文学史・古文常識:

  • 平家物語:鎌倉時代成立の軍記物語。平家一門の興亡と無常観・仏教思想が中心テーマ。
  • 祇園精舎:インド・釈迦ゆかりの寺院。「鐘の声」が無常観の象徴。
  • 沙羅双樹:仏教聖樹で、花がすぐに散ることから盛者必衰の例えとされる。
  • 諸行無常・盛者必衰:仏教の根本思想。全てのものは変化し、盛んなものも必ず衰える。

重要古語・語句:

  • おごれる人:驕り高ぶった人。
  • 猛き者:勇ましい者。
  • あはれ:しみじみとした感動、もののあわれ。

【設問】

【問1】「祇園精舎の鐘の声」や「沙羅双樹の花の色」に込められた無常観を、本文の流れに即して200字以内で述べよ。

【問1 解答例・解説】

鐘の音や沙羅双樹の花は、すべてが変わりゆく無常の象徴であり、栄光や権力もやがて必ず滅びることを示している。平家物語は冒頭から、盛者必衰・世の無常という仏教的真理を一貫して物語全体の基調とし、読者に人生の儚さを強く印象づけている。(195字)

【問2】「春の夜の夢」「風の前の塵」の比喩がもつ文学的効果について、評論的に300字以内で述べよ。

【問2 解答例・解説】

「春の夜の夢」「風の前の塵」は、栄華や命がきわめて儚く、はかないものであることを、誰にでもわかる具体的なイメージで鮮やかに表現している。現実の繁栄や力も、夢が覚めれば消えてしまうし、塵が風に吹き払われるように一瞬で消滅する。平家物語の冒頭でこれらの比喩を用いることで、人生や歴史の無常観を感覚的・情感的に読者の心に訴えかける効果が非常に大きい。短い言葉で普遍的真理を伝える日本文学の比喩表現の頂点といえる。(293字)

【問3】あなたが「おごれる人も久しからず」と実感した社会的・個人的な経験を一つ挙げ、平家物語との共通点を400字以内で述べよ。

【問3 解答例】

会社や学校で、一時的に権力や成功を手にした人が、周囲に対して高慢な態度をとるようになった後、思わぬ失敗や環境の変化で急速に孤立したり、地位を失ったりする場面を何度か見たことがある。私自身も、調子に乗っていたときほど思いがけない挫折を味わい、「すべてのものは移ろいゆく」「おごれるものは久しくは続かない」という平家物語の世界観を痛感した。人も組織も、栄光や権力におごらず、常に謙虚さと無常観を忘れずに生きるべきだという教訓は、現代社会にも通じる普遍的なものだと改めて思う。

【問4】平家物語冒頭の無常観が日本文化や文学に与えた影響について、評論的に400字以内で述べなさい。

【問4 解答例】

平家物語の冒頭「祇園精舎」は、日本文学における無常観の原点として後世に絶大な影響を与えた。盛者必衰・諸行無常の思想は、能・俳諧・近世文学、さらには現代小説・詩歌に至るまで、さまざまな作品で繰り返し引用・変奏されてきた。儚さや哀しみを受け入れ、もののあわれや自然の移ろいを美とする日本的感性の基盤をなすとともに、歴史や人生のはかなさに対する諦観・成熟した倫理観を育んだ点で、平家物語の意義は計り知れない。短い冒頭で人生・歴史・宇宙観を語る普遍性と、詩的表現の力は、今も多くの人の心に響き続けている。

レベル:最難関大・専門レベル|更新:2025-07-25|問題番号:116