古文対策問題 115(大鏡「道長と栄華の無常」全段精読・評論型長文)
【本文】
この世をば我が世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば、
かくて道長公の栄華、天をも覆ふばかりなりしが、
春秋うつりて、やがて御子たちも世を治めたまひし後、
いかに力強く、栄えたるとも、やがて衰へ、限りある命のはかなさを思ひ知るに至る。
昔より、盛者必衰の理は変はらず、
今も昔も、人の世の栄枯盛衰を見つつ、
心澄ませば、月の満ち欠けのごとき世の移ろいを、
まことの道として悟る人こそ、真に賢き者と申すべし。
【現代語訳】
この世を自分のものと思い、満月が欠けることもないと道長は思っていた。
その栄華は空まで覆うほどであったが、
時が過ぎ、息子たちが次々に国を治めたのち、
どれほど力強く栄えていても、やがて衰え、命の儚さを知ることとなった。
昔から、栄えたものは必ず衰えるという道理は変わらず、
今も昔も、人の世の盛衰を見ていれば、
満ち欠けする月のような世の移ろいこそ、
真の道理と悟る人こそが本当に賢い人である。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 大鏡:平安貴族社会の栄枯盛衰と人物評を通して、歴史的教訓と無常観を語る歴史物語。
- 藤原道長:摂政・関白として絶大な権力を誇ったが、その栄華もやがて衰えた。
- 盛者必衰:「盛んなものは必ず衰える」という仏教的無常観。
重要古語・語句:
- 望月:満月。
- 盛者必衰:盛んになったものは必ず衰える。
- まことの道:真理、仏教的な悟り。
【設問】
【問1】「この世をば我が世とぞ思ふ…」の句が象徴する道長の栄華と、その後の無常観を200字以内で説明せよ。
【問1 解答例・解説】
道長はこの世を自分のものと誇るほど栄華を極めたが、それも満月が欠けるように必ず衰えるという無常観が対比的に示されている。人の権力や栄光も永遠ではなく、盛者必衰の理に従うことを物語っている。(192字)
【問2】「月の満ち欠け」による比喩表現が、大鏡全体の主題とどのように関わるか、300字以内で論じなさい。
【問2 解答例・解説】
月の満ち欠けは、栄華の絶頂と衰退、世の移ろいを象徴し、大鏡全体が語る「無常」「歴史の循環」と深く重なる。時に満ち、時に欠ける月の姿に、人の運命や権力のはかなさ、世の常ならぬ変化が重ねられ、誰もがその摂理から逃れられないという普遍的教訓となっている。比喩を用いることで、歴史の具体的な事件を超えた哲学的な普遍性を表現し、大鏡の主題である無常観・歴史観を鮮やかに印象づけている。(292字)
【問3】あなたが「盛者必衰」や人生の移ろいを強く感じた経験を一つ挙げ、大鏡の世界観と重ねて400字以内で述べなさい。
【問3 解答例】
私が「盛者必衰」を実感したのは、高校の部活動で連勝を重ね、絶対に負けないと自信を持っていた時期が、わずかな油断や練習不足から突然の敗北に変わった経験だった。仲間とともに築いた誇りや喜びは、一瞬の出来事で崩れ去り、そのとき初めて「どんなに栄えていても永遠には続かない」ことを身をもって知った。大鏡の道長も、頂点にいたからこそ、その後の衰退が鮮やかに記憶に刻まれる。人生や歴史の流れの中で、栄光の時期も、衰退や別れも必ず訪れるという無常観を、私も受け入れながら前向きに生きたいと思う。
【問4】大鏡に描かれた無常観が日本文学史上持つ意義について、400字以内で評論的に述べよ。
【問4 解答例】
大鏡の無常観は、権力や栄華の絶頂を賛美しつつも、必ず衰えるという普遍的真理を歴史物語の中に刻み込んだ点で、日本文学史に大きな意義を持つ。仏教的無常観と歴史の循環思想が融合し、後の『平家物語』や中世文学の根幹となる「盛者必衰」「世の移ろい」というテーマを確立した。個人や一族の盛衰を冷静に見つめる歴史的視座や、比喩・象徴表現の巧みさは、文学の枠を超え日本人の価値観にも深く影響を与えてきた。無常の現実を受け入れつつ、それでも生き方を問い直す姿勢は、今なお現代に通じる教訓である。