古文対策問題 112(和泉式部日記「恋の苦しみと自己省察」全段精読・評論型長文)

【本文】

人知れず思ふ心のやるかたなくて、夜のふけゆくにまかせて、袖の涙も乾く間ぞなき。
ある夜、御文も絶え、訪れもなきまま、心のみぞ騒がしき。
「かきくらす 心の闇に迷ふかな 思ひのほかに 君ぞ恋しき」
と詠みて、我ながら思ひ沈む。
さすがに、日々の暮らしに紛れつつ、恋の苦しみを和らげんとすれど、夜の更けるごとに、思ひのままならぬ心の闇は深くなるばかりなり。
さても、恋しさに堪へずして、また筆をとりて、君に文を送りぬ。

【現代語訳】

人知れず思い悩む心のやり場もなく、夜が更けるにつれて、袖の涙も乾く間がない。
ある夜は手紙も途絶え、訪れもなく、ただ心だけが騒いでいた。
「暗く覆う心の闇に迷っている。思いもよらず、あなたが恋しくてたまらない」と詠み、我ながら深く沈んだ。
それでも日々の暮らしに紛れて、恋の苦しみを和らげようとするが、夜が更けるごとに、思い通りにならない心の闇は深くなるばかりだった。
ついには恋しさに耐えきれず、再び筆をとって彼に手紙を送った。

【覚えておきたい知識】

文学史・古文常識:

  • 和泉式部日記:和泉式部による恋愛日記文学。宮廷恋愛と苦悩、自己省察の深さで知られる。
  • 御文:手紙。
  • 和歌と日記:和歌による心情表現と、散文部分の省察・反省が交錯する構成が特徴。

重要古語・語句:

  • やるかたなくて:心の晴らしようがなくて。
  • かきくらす:暗く覆う。
  • 思ひのままならぬ:思い通りにならない。
  • 堪へずして:こらえきれずに。

【設問】

【問1】「心の闇」を表現した本文の和歌の意図と、日記全体のテーマとの関係を200字以内で論じなさい。

【問1 解答例・解説】

和歌「かきくらす…」は、恋の不安や寂しさ、心の迷いを「闇」として象徴し、恋情の苦しみを端的に表現している。日記全体も、人知れぬ恋の苦悩や自己省察、女性の内面世界の複雑さを描く点で、和歌と深く響き合っている。(191字)

【問2】和泉式部日記における「恋の苦しみ」の描き方について、評論的に300字以内で述べよ。

【問2 解答例・解説】

和泉式部日記では、恋愛の喜びだけでなく、不安・孤独・自己嫌悪など負の感情も赤裸々に描かれる。単なる相手への思慕を超え、心の闇や迷い、感情の揺れを和歌や散文で繊細に表現しており、現実と理想、希望と絶望のはざまで揺れる人間心理の普遍性が際立つ。感情の流れを抑制せず、率直に記録することで、恋という行為自体の本質や、人間の弱さ・強さに対する鋭い自己省察が文学的価値となっている。(297字)

【問3】あなた自身が「思いのままならぬ心の闇」を感じた体験を一つ挙げ、本文との共通点を400字以内で述べなさい。

【問3 解答例】

私も大切な人との関係で思い悩んだ経験がある。連絡が途絶えたり、すれ違いが続いたとき、自分の思いだけが空回りし、心の晴らしようもなく夜遅くまで眠れなかった。日常の忙しさに紛らわせようとしても、ふとした瞬間に不安や寂しさがよみがえり、心が深い闇に覆われる気がした。和泉式部のように、「もう一度だけ」と手紙やメッセージを送ってしまう自分を後で悩むこともあった。恋の苦しみや心の迷いは、時代や立場が違っても人間誰しも共通に抱くものであり、それを率直に記録し、和歌として昇華した作者の心の動きに深く共感する。

【問4】和泉式部日記の文学史的意義を、日記文学・和歌文学の両面から400字以内で述べよ。

【問4 解答例】

和泉式部日記は、個人の恋愛感情や内面世界を和歌と散文で交互に描くことで、日本日記文学の深化に大きく寄与した。和歌による凝縮表現と、日記としての自己省察や感情の記録を融合し、後の『紫式部日記』『更級日記』などに影響を与えた。また、宮廷女性の恋愛心理を繊細かつ普遍的に描いたことで、和歌文学にも新たな深みをもたらし、「感情の文学」としての和歌の意義を拡大した。個人の感情・苦悩・成長を文学として昇華した点で、日本文学史に不可欠な役割を果たしている。

レベル:最難関大・専門レベル|更新:2025-07-25|問題番号:112