古文対策問題 058(源氏物語「若紫」長文)

【本文】

いと若き姫君、北山の僧坊にて、尼君とともに静かに暮らし給ふ。
源氏の君、藤壺の宮の御悩みゆえ、北山に参詣し給ひしが、道すがら僧坊に立ち寄りて、垣間見給ふに、姫君は桜の花の下に、若葉色の小袖を着て、小さき鳥を遊ばせつつ、童女と語らひ給ふさま、いとあはれなり。
尼君は姫君の成長を案じ、「世にたのむ方なくば、いかがはせむ」と涙ながらに語る。姫君はその袖に顔を寄せて、いともの憂げに見え給ふ。
源氏の君、姫君の美しさと、幼きながらも気高きありさまに心ひかれ、「この子をいかで見過ごし奉らむ」と、ひそかに思ひ給ふ。
その後もたびたび北山を訪れ、姫君に和歌を贈り、手紙のやりとりを続けけり。
姫君は、知らぬ世の移ろひに心細く思ひつつも、源氏の君の訪れに、次第に心を開きていきける。

【現代語訳】

まだ幼い姫君が北山の僧坊で、尼君とともに静かに暮らしていた。
源氏の君は藤壺の宮の病気平癒を願って北山に参詣し、その道すがら僧坊に立ち寄って垣間見ると、姫君は桜の花の下で、若草色の小袖を着て、小鳥を遊ばせ、童女と話している姿がとても趣深かった。
尼君は姫君の将来を心配して、「この世に頼るものがなければ、どうしたらよいのか」と涙ながらに語った。姫君はその袖に顔をうずめて、とても物憂げな様子であった。
源氏の君は姫君の美しさや気高い様子に強く惹かれ、「この子をどうして見過ごすことができようか」と心の中で思った。
その後も何度も北山を訪れては、姫君に和歌を贈り、手紙のやりとりを続けた。
姫君は知らない世の中の移り変わりに不安を感じつつも、源氏の君の訪れに次第に心を開いていったのであった。

【覚えておきたい知識】

文学史・古文常識:

  • 作者:紫式部。平安中期の女流作家。
  • 作品:『源氏物語』の「若紫」巻。のちの紫の上との出会いの場面。
  • 垣間見:すき間からそっと見ること。
  • 尼君:姫君の祖母。仏門に入った女性。
  • 和歌の贈答:平安貴族の恋愛や交流の基本的な手段。

重要古語・語句:

  • いとあはれなり:とても趣深い。
  • たのむ方:頼りとするもの。
  • もの憂げ:つらそうな、元気のない様子。
  • 見過ごし奉らむ:見過ごすことができようか(反語)。
  • 移ろひ:世の中の変化、移り変わり。

【設問】

【問1】北山の僧坊での姫君の様子として本文内容に最も近いものを一つ選べ。

  1. 桜の下で小鳥を遊ばせ、童女と語らっていた
  2. 兄弟と囲碁を打っていた
  3. 庭の池で泳いでいた
  4. 母と都で買い物をしていた
  5. 笛を吹いていた
【問1 正解と解説】

正解:1

「桜の花の下に、小さき鳥を遊ばせつつ、童女と語らひ給ふ」と本文に明記されている。

【問2】尼君が涙ながらに語ったこととして本文内容に最も合うものを一つ選べ。

  1. この世に頼るものがなければ、どうしたらよいかと心配した
  2. 源氏の君の訪問を喜んだ
  3. 早く都に帰りたいと語った
  4. 病気が治るよう願った
  5. 姫君が和歌を詠むのを褒めた
【問2 正解と解説】

正解:1

「世にたのむ方なくば、いかがはせむ」と涙ながらに語る場面がある。

【問3】源氏の君が姫君に心ひかれた理由として最もふさわしいものを一つ選べ。

  1. 幼いながらも美しく気高い様子に心をひかれた
  2. 姫君が都の高貴な出自だったから
  3. 姫君が舞を舞っていたから
  4. 姫君が有名な詩人だったから
  5. 姫君の家柄が藤原氏だったから
【問3 正解と解説】

正解:1

「幼きながらも気高きありさまに心ひかれ」と明記されている。

【問4】この一連の場面が『源氏物語』全体の中で象徴するものとして最もふさわしいものを一つ選べ。

  1. 紫の上(後の姫君)との運命的な出会いと物語の新展開の始まり
  2. 源氏の君の失脚
  3. 戦いの勝利
  4. 都での政争の終結
  5. 姫君の即位
【問4 正解と解説】

正解:1

この出会いが紫の上誕生と物語の核心的展開の始まりとなる場面である。

レベル:やや難|更新:2025-07-25|問題番号:058