古文対策問題 056(枕草子「宮中の秋」長文)
【本文】
秋の夕暮れ、御殿の庭には、萩・すすきの穂いと白く、虫の音かすかに聞こゆ。空は澄みわたり、雁の列ただよひて、風すずしく吹き渡る。
清少納言、御簾の内より、うち眺め給ふに、殿上人、女房たち、秋の花を手折りては、和歌を詠み交わし、琴や笛の音も遠く響く。
その夜、院より使ひ来たりて、「今宵の月はいと清らかに候ふ」と仰せらる。清少納言、月の光に庭を照らし、秋の景色のうつろふさまを、院に奏しけり。
夜はふけ、女房たちも皆、物語など語りつつ、次第に静まりぬ。
清少納言は一人、庭の秋草に露の光るを見やりて、「季節のうつろひ、心のありさまもまた変わりゆくものかな」と、しみじみ思ひ入りつつ、夜明けを迎へけり。
【現代語訳】
秋の夕暮れ、御殿の庭には萩やすすきの穂がとても白く、虫の音がかすかに聞こえる。空は澄みわたり、雁の列が漂い、風は涼しく吹き抜けていく。
清少納言は御簾の内側から眺めていると、殿上人や女房たちが秋の花を手折っては和歌を詠み交わし、琴や笛の音も遠くから響いてくる。
その夜、院から使いがやってきて「今夜の月はとても澄んでいます」と伝える。清少納言は月の光が庭を照らし、秋の景色が移ろっていくさまを院に申し上げた。
夜が更けていくと、女房たちも物語などを語りながら次第に静かになった。
清少納言はひとり、庭の秋草に露が光るのを見て「季節が移ろうように、心のありさまもまた変わっていくものだな」としみじみ思いながら、夜明けを迎えた。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:清少納言。平安時代中期の女流随筆家。
- 作品:『枕草子』。四季の移ろいと宮中生活の情趣を描く。
- 院:上皇。
- 殿上人:高貴な身分の男性。貴族。
- 御簾:御殿内のすだれ。
重要古語・語句:
- いと白く:とても白く。
- 手折る:花を折る、摘み取る。
- うつろふ:移り変わる。
- しみじみ:心に深く感じる。
- 思ひ入りつつ:思いにふけりながら。
【設問】
【問1】秋の夕暮れの情景として本文に描かれていないものを一つ選べ。
- 紅葉した楓が風に舞う
- 萩やすすきの穂が白く光る
- 虫の音が聞こえる
- 雁の列が漂う
- 涼しい風が吹く
【問1 正解と解説】
正解:1
楓の紅葉については本文に触れられていない。
【問2】夜、院からの使者が伝えたこととして最も正しいものを一つ選べ。
- 今夜の月が非常に澄んでいると伝えた
- 秋の果物を贈った
- 新しい和歌の題を与えた
- 庭の手入れを命じた
- 都で宴を開くよう命じた
【問2 正解と解説】
正解:1
「今宵の月はいと清らかに候ふ」と伝えたと本文に明記されている。
【問3】夜が更けた後の女房たちの様子について本文内容に近いものを一つ選べ。
- 物語などを語り合いながら次第に静かになった
- 和歌を詠み続けて夜を明かした
- 踊りを舞い続けた
- 外に出て月見をした
- 宴会で騒いでいた
【問3 正解と解説】
正解:1
女房たちは「物語など語りつつ、次第に静まりぬ」とある。
【問4】清少納言が最後に感じた「心のありさまもまた変わりゆくものかな」という思いから読み取れる人生観として最も適切なものを一つ選べ。
- 人の心も季節の移ろいのように変化していくという無常観
- 努力すればすべてうまくいくという信念
- 過去を忘れて生きるべきだという信条
- 友情だけが人生の宝だという価値観
- 恋愛が人生の中心だという考え
【問4 正解と解説】
正解:1
季節のうつろいに寄せて人の心の変化や無常観をしみじみと感じている。