古文対策問題 055(更級日記「夢と現実」長文)
【本文】
少女のころより、物語の多くあらむ世に生まれあひたる心地して、日ごろ夢見るごとくに過ごしぬ。
いとど物語に心をひかれて、家の人の寝たる夜ごと、灯火の下にひそかに書をひらき見けるを、母に知られては咎められ、泣く泣く本を隠しぬ。
それよりのち、物語への思ひはますます深まりて、夢の中にさへ、紫の上や光源氏の面影を見て、覚めて後もしばらく涙のとどまらず。
やがて年月過ぎ、つひに都を離れ、父の任国へと旅立つことになりぬ。道すがら、幼き日々に夢見た物語の都を思ひ、現実の寂しさに胸ふさがるばかりなり。
国に着きて後も、かつての夢は叶はず、日々の暮らしは物憂く、心のみ物語の世にさまよふ。
それでも、夜ごとに空を仰ぎては、「いつの日か、ふたたび都に戻り、物語の続きをこの目で見む」と、淡き願ひを心に秘めて過ごしける。
【現代語訳】
少女のころから、たくさんの物語がある時代に生まれ合わせた気がして、毎日が夢のように過ぎていった。
いっそう物語に心ひかれて、家の人が寝静まるたびに、灯りの下でこっそり本を読んでいたが、母に見つかっては叱られ、泣きながら本を隠した。
それからも物語への思いはますます強くなり、夢の中にまで紫の上や光源氏の姿が現れ、目が覚めても涙が止まらなかった。
やがて年月が過ぎ、ついに都を離れて父の赴任先へと旅立つことになった。道中、幼い日に夢見た都の物語を思い出し、現実の寂しさに胸がふさがるばかりだった。
国に着いた後も、かつての夢はかなわず、毎日の生活は物憂く、心だけが物語の世界をさまよっていた。
それでも毎晩空を仰いでは、「いつか再び都に戻り、物語の続きを自分の目で見たい」と、淡い願いを心に秘めて暮らしていた。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)。平安中期の女流日記文学作家。
- 作品:『更級日記』。少女時代の読書欲と夢、現実との葛藤が描かれる。
- 任国:父親の任地。国司の赴任先。
- 紫の上・光源氏:『源氏物語』の主要登場人物。物語の象徴。
重要古語・語句:
- いとど:いっそう。
- ひそかに:こっそりと。
- 泣く泣く:泣きながら。
- 胸ふさがる:心がふさぐ。悲しくなる。
- 物憂く:気が晴れない。つらい。
- 淡き願ひ:かすかな願い。
【設問】
【問1】筆者が「家の人の寝たる夜ごと、灯火の下にひそかに書をひらき見ける」とあるが、この行動の背景として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 物語を読むことが家族にとがめられることだった
- 外で遊ぶことが好きだった
- 旅が趣味だった
- 母に物語を読んでもらっていた
- 都で勉強していた
【問1 正解と解説】
正解:1
母に見つかっては咎められた、とあり、読書が家族の目を気にする行為だったことがわかる。
【問2】都を離れて任国に向かう道中の筆者の心情として本文に近いものを一つ選べ。
- 現実の寂しさに胸がふさがる思いだった
- 新しい土地への期待に満ちていた
- 都を離れることに喜びを感じていた
- 父と話せることを楽しみにしていた
- 旅が好きで心が躍っていた
【問2 正解と解説】
正解:1
「現実の寂しさに胸ふさがるばかりなり」と明記されている。
【問3】国に着いた後の筆者の様子として、本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 夢はかなわず、日々の暮らしは物憂く、心のみ物語の世にさまよっていた
- 新しい友と出会い、毎日楽しく過ごした
- 両親と再会して安心した
- 任国の自然に感動して詩を詠んだ
- 日々勉学に励んだ
【問3 正解と解説】
正解:1
「夢は叶はず、日々の暮らしは物憂く、心のみ物語の世にさまよふ」とある。
【問4】最後に筆者が「淡き願ひを心に秘めて過ごしける」とあるが、その願いとして本文に即して正しいものを一つ選べ。
- いつか都に戻り、物語の続きを自分の目で見たい
- 新しい土地で家を建てたい
- 両親の健康を願った
- 任国で出世したい
- 新しい友人を作りたい
【問4 正解と解説】
正解:1
「いつの日か、ふたたび都に戻り、物語の続きをこの目で見む」とある。