古文対策問題 054(大鏡「道長と御堂関白」長文)
【本文】
この道長公、御堂関白道隆の御子にて、幼きより才知すぐれ、世の人も「この人こそは」と仰ぎぬ。
道隆公、関白の位にありて栄華きはまるころ、道長を御前に召して、「この世はただ夢のごとし。おのれもまた、はかなきものなり」と語り聞かせ給ふ。
やがて道隆公、世を去り給ひぬ。道長は父の遺志を胸に、ひたすら学問と政道に励み給ふ。やがてその才をもって朝廷に仕え、次第に権勢を増し、ついには摂政・関白の位に上りぬ。
御堂殿と呼ばれ、藤原氏の栄華を極めたれども、内心には「盛者必衰、無常の理」を忘れず、父の言葉を深く心に留めていた。
ある夜、月明かりの下、道長公は独り庭に立ちて、「この世をば我が世とぞ思ふ…」と詠じ、盛運の中にも物憂さと寂しさを覚えけり。
【現代語訳】
この道長公は御堂関白道隆の子として生まれ、幼いころから才知に優れ、世の人々も「この人こそは」と仰いだ。
道隆公が関白の地位にあって栄華を極めていた頃、道長を呼び寄せて「この世はただ夢のようなものだ。私自身もまた儚い存在である」と語って聞かせた。
その後、道隆公はこの世を去った。道長は父の遺志を胸に刻み、ひたすら学問と政治に励んだ。やがてその才能を認められて朝廷に仕え、次第に権力を増していき、ついには摂政・関白の位にまで上り詰めた。
「御堂殿」と呼ばれ、藤原氏の栄華の絶頂をきわめたが、心の奥では「盛者必衰、無常の理」を忘れず、父の言葉を深く大切にしていた。
ある夜、月明かりのもとで、道長公はひとり庭に立ち、「この世をば我が世とぞ思ふ…」と詠じ、栄華の中にも物憂さや寂しさを感じていたのであった。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:未詳。平安後期の歴史物語。
- 作品:『大鏡』。藤原氏の興亡と人物の栄枯盛衰を描く。
- 御堂殿:藤原道長の異名。阿弥陀堂(御堂)を建立したことに由来。
- 関白:天皇を補佐する最高権力者。
- 盛者必衰:栄えた者も必ず衰えるという真理。
重要古語・語句:
- 才知すぐれ:才能と知恵が優れている。
- きはまる:極まる、絶頂に達する。
- 御前に召す:呼び寄せる。
- やがて:そのまま、すぐに。
- ひたすら:一心に。
- 物憂さ:物寂しさ、憂鬱。
【設問】
【問1】道長公の父・道隆公が「この世はただ夢のごとし」と語った意図として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 栄華も人生も儚いものであることを伝えたかった
- 夢の中で出世したいと願っていた
- 戦の勝利を目指した
- 家族との団らんを願った
- 旅に出る計画を伝えた
【問1 正解と解説】
正解:1
「この世はただ夢のごとし。おのれもまた、はかなきものなり」とあり、栄華も人生も儚いという無常観を伝えている。
【問2】道長が「御堂殿」と呼ばれた理由として本文から正しいものを一つ選べ。
- 阿弥陀堂(御堂)を建立したから
- 武勇に優れていたから
- 文学に秀でていたから
- 旅好きだったから
- 都を離れたから
【問2 正解と解説】
正解:1
「御堂殿」は阿弥陀堂(御堂)建立に由来する異名である。
【問3】「この世をば我が世とぞ思ふ…」と詠じた場面に見られる道長の心情として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 盛運の中にも無常や寂しさを感じていた
- 大いなる希望と野心を持っていた
- 戦いに向けて勇気を鼓舞した
- 家族と平和な生活を喜んでいた
- 詩歌を楽しんでいた
【問3 正解と解説】
正解:1
盛運の絶頂で詠んだ歌の中にも、物憂さや無常観が込められている。
【問4】本文全体から読み取れる『大鏡』の主題・人生観として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 栄華の盛衰と人生の無常
- 武勇の大切さ
- 恋愛の喜び
- 日常生活の楽しさ
- 旅の思い出
【問4 正解と解説】
正解:1
道長の栄華とその陰にある無常観こそが『大鏡』全体の主題である。