古文対策問題 053(徒然草「つれづれなるままに」長文)

【本文】

つれづれなるままに、日ぐらし硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。
住み慣れし古里を離れ、都に上りてより、しばしば人の世の無常を思ふこと多し。
ある時は、窓の外にひとしきりの雨の降るを眺め、またある時は、庭の草の露を見て、世のはかなさを思ひ知る。
夜は更け、虫の声、風の音、さまざまに物思ひの種となりて、心の慰めを求むれど、得がたきこともあり。
それにしても、人の心の奥深く、世の表には見えぬことこそ、世を知る手がかりなりと覚ゆ。
かくて、折々の心のままに書きつけしもの、数知らず積もりて、年ごろの思ひ出となりにけり。

【現代語訳】

何もすることがないまま、日がな一日硯に向かい、心に浮かぶつまらないことを、ただ思いつくままに書きつけていると、なんだか妙に物狂おしい気分になってくる。
住み慣れた故郷を離れて都に上ってからは、しばしば人の世の無常について考えることが多くなった。
ある時は窓の外に雨が降るのを眺め、またある時は庭の草の露を見て、世の儚さをしみじみと感じる。
夜が更けると、虫の声や風の音がさまざまに物思いのきっかけとなり、心の慰めを求めるが、それもなかなか得られないこともある。
それにしても、人の心の奥深く、表には見えないことこそが、世の中を知る手がかりになるように思う。
こうして時折の心のままに書きつけたものが、知らず知らずのうちに積もり重なって、何年もの思い出となっていくのだった。

【覚えておきたい知識】

文学史・古文常識:

  • 作者:兼好法師(吉田兼好)。鎌倉時代末〜南北朝期の随筆家。
  • 作品:『徒然草』。日常の思いや世の無常、人生観などを綴った随筆文学の代表作。
  • つれづれ:何もすることがなく退屈なこと。
  • 硯:墨をすって字を書くための道具。

重要古語・語句:

  • よしなしごと:つまらないこと、取るに足らぬこと。
  • そこはかとなく:なんとなく、はっきりしないまま。
  • あやしうこそものぐるほしけれ:妙に物狂おしい気分だ。
  • 年ごろ:長年。

【設問】

【問1】筆者が「つれづれなるままに…書きつくれば」とあるが、この行動から読み取れる筆者の心情として最もふさわしいものを一つ選べ。

  1. 日常の退屈さや孤独感を感じつつも、書くことで心の動きを確かめている
  2. 忙しく仕事をしている
  3. 人と楽しく遊んでいる
  4. 旅に出ている
  5. 都で宴を開いている
【問1 正解と解説】

正解:1

「つれづれ」「よしなしごと」など、退屈さ・孤独・思索と、それを紛らわすための執筆という心情が読み取れる。

【問2】都に上ってからの筆者の心情や行動として正しいものを一つ選べ。

  1. 人の世の無常を考えることが増えた
  2. 家族と再会して喜び合った
  3. 新しい土地で商売を始めた
  4. 都で武士になった
  5. 音楽を習い始めた
【問2 正解と解説】

正解:1

「人の世の無常を思ふこと多し」と明言されている。

【問3】夜の情景で、筆者が何を感じているか、本文に即して最も近いものを一つ選べ。

  1. 虫の声や風の音が物思いのきっかけとなり、心の慰めを求めるも得難いと感じている
  2. 夜の宴会で賑やかに過ごしている
  3. 家族と食事を楽しんでいる
  4. 笛の音に慰められている
  5. 旅に出かけたくなっている
【問3 正解と解説】

正解:1

「虫の声、風の音…心の慰めを求むれど、得がたきこともあり」と記されている。

【問4】本文後半で筆者が重視している人生観・価値観として正しいものを一つ選べ。

  1. 表には見えない心の奥や人の本質を知ることが大切である
  2. 財産を増やすことが大切である
  3. 楽しく遊ぶことが一番大切である
  4. 戦いで名を上げることが大切である
  5. 親の言うことを聞くことが大切である
【問4 正解と解説】

正解:1

「人の心の奥深く、世の表には見えぬことこそ…」と記され、内面・本質を重視する姿勢が表現されている。

レベル:やや難|更新:2025-07-25|問題番号:053