古文対策問題 092(更級日記「上京と憧れ」長文)
【本文】
東国より都に上りける道すがら、心のうちに思ふこと数多し。
「いかでこの世に生まれて、物語のある限りは見む」と、少女のころより憧れし都の暮らしを夢みて、道のほど遠けれど、胸のうち弾みてやまず。
山路を分け、川を渡り、暮れがたき夕日の中を進みゆく。
やがて都の灯の見ゆるとき、涙さえこぼれて、胸せまりぬ。
かくして日記を綴りつつ、憧れの都に足を踏み入れし日のこと、忘れがたき思ひ出となりにけり。
【現代語訳】
東国から都へ上る道中、心の中で思うことがたくさんあった。
「どうにかしてこの世に生まれたからには、物語がある限りすべて読んでみたい」と、少女のころから憧れていた都の暮らしを夢見て、道のりは遠かったが胸は高鳴り続けた。
山道を分け、川を渡り、夕暮れの中を進んでいった。
やがて都の灯りが見えたとき、涙さえこぼれ、胸がいっぱいになった。
こうして日記を綴りながら、憧れの都に足を踏み入れた日のことは、忘れがたい思い出となったのである。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)。平安中期の女流日記文学作家。
- 作品:『更級日記』。少女期からの成長と物語への憧れ、上京の記録を綴る。
- 上京:地方から都へ上ること。
- 日記文学:平安時代の女性による仮名文の日記。
重要古語・語句:
- 道すがら:道中、途中。
- いかで:なんとかして、どうして。
- ほど遠し:道のりが遠い。
- 胸せまる:感動で胸がいっぱいになる。
- 忘れがたし:忘れられない。
【設問】
【問1】筆者が都への道中で心のうちに強く思っていたこととして本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 都の暮らしと物語への憧れ
- 旅の危険
- 家族との別れ
- 仕事のこと
- 仏道修行
【問1 正解と解説】
正解:1
「少女のころより憧れし都の暮らし」「物語のある限りは見む」とある。
【問2】都の灯を見たときの筆者の心情として本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 感動で涙がこぼれた
- 恐れを感じた
- 怒りを覚えた
- 何も感じなかった
- 眠くなった
【問2 正解と解説】
正解:1
「涙さえこぼれて、胸せまりぬ」とある。
【問3】本文で筆者が道中していたこととして本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 山路を分け、川を渡り、夕暮れを進んだ
- 宴を開いた
- 馬に乗った
- 舟で旅した
- 狩りをした
【問3 正解と解説】
正解:1
「山路を分け、川を渡り、暮れがたき夕日の中を進みゆく」とある。
【問4】『更級日記』の上京部分の意義として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 少女期の夢や成長の記録を日記文学として描く点
- 武士の戦いを記す点
- 仏教説話を集める点
- 農民の生活を描く点
- 恋愛歌物語である点
【問4 正解と解説】
正解:1
少女の夢や成長、物語への憧れを描く日記文学である。