古文対策問題 091(伊勢物語「東下り」長文)
【本文】
昔、男ありけり。京にて世をのがれ、東の方へ下りける。
武蔵野の道すがら、野は霞みて春のけしき、はるばると見渡されけり。
やがて隅田川のほとりに至りて、川のほとりに集ひて泣きけり。
「名にし負はば いざ言問はむ 都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと」
男、都に残した人のことを思ひ、歌を詠みて涙にくれける。
そののち、旅の疲れもいや増して、心細くもありけり。
【現代語訳】
昔、男がいた。京での世を避けて東国へ下った。
武蔵野の道中、野は霞がかかって春らしい景色が広がっていた。
そして隅田川のほとりに着き、人々とともに集まって泣いた。
「名にし負はば いざ言問はむ 都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと」と歌を詠んだ。
男は都に残した人のことを思い、涙にくれた。
その後、旅の疲れもひときわ増して、心細さを感じた。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:在原業平(ありわらのなりひら)と伝わる歌物語。
- 作品:『伊勢物語』。平安前期の歌物語。
- 東下り:都を離れ東国に下る旅のこと。
- 都鳥:隅田川に住む鳥、都への思いを託す存在。
重要古語・語句:
- のがる:逃れる、避ける。
- けしき:景色、様子。
- 集ふ:集まる。
- 言問ふ:問いかける。
- 涙にくる:涙でくれる、涙に沈む。
【設問】
【問1】男が東国に下った理由として本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 京での世を避けたかったから
- 武士になりたかったから
- 仏道修行のため
- 新しい仕事を求めて
- 家族と再会するため
【問1 正解と解説】
正解:1
「京にて世をのがれ、東の方へ下りける」と本文にある。
【問2】隅田川のほとりで男が詠んだ歌に込めた思いとして最も合うものを一つ選べ。
- 都に残した人への思い
- 東国の美しさ
- 旅の安全祈願
- 自然の豊かさ
- 戦いの決意
【問2 正解と解説】
正解:1
「わが思ふ人は ありやなしやと」都の人を偲んでいる。
【問3】旅の途中で男が感じていたこととして本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 心細さと疲れ
- 勇気と希望
- 楽しい宴
- 新たな出会いの喜び
- 怒りと悔しさ
【問3 正解と解説】
正解:1
「旅の疲れもいや増して、心細くもありけり」とある。
【問4】『伊勢物語』の特徴として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 歌と物語が融合した平安時代の歌物語である
- 仏教説話中心の説話集である
- 農民の日常を描く日記文学である
- 武士の活躍を描く軍記物語である
- 都の四季を記す和歌集である
【問4 正解と解説】
正解:1
『伊勢物語』は和歌と物語が融合した平安前期の歌物語である。