古文対策問題 090(土佐日記「帰京の船旅」長文)
【本文】
それの年の十二月二十日あまりに、土佐の国より京へとて、船出す。
あやしき船にのりて、女も男も、老いも若きも、思ふこと多く、波の音に心を添へて夜を明かしけり。
風はげしく吹きて、雲の間より月の光、波の上にうつろひ、物悲しき景色なり。
いとど遠ざかる故郷を眺めて、涙落ちぬ。「都に帰らむ」と書きし日記の一節一節、夜の闇に浮かびて、しみじみと思ひ出づ。
やがて夜の明けゆくに、皆、声をひそめて都の話などしつつ、はるかな船路をたどりゆく。
【現代語訳】
その年の十二月二十日過ぎに、土佐の国から都に向かって船出した。
粗末な船に乗り、女も男も、老いも若きも、それぞれ多くの思いを抱き、波の音を聞きながら夜を明かした。
風が激しく吹き、雲の間から月の光が波の上に移り、もの悲しい景色であった。
ますます遠ざかる故郷を見つめて涙を流す。「都に帰ろう」と書いた日記の一節一節が、夜の闇に浮かんでしみじみと思い出された。
やがて夜が明けていくと、皆、声をひそめて都の話などをしながら、はるかな船旅をたどっていった。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:紀貫之(きのつらゆき)。平安前期の歌人・仮名日記文学の祖。
- 作品:『土佐日記』。国司として赴任した土佐から都への帰京の旅を綴る。
- 国司:地方の長官。
- 仮名日記:女性に仮託した一人称の仮名文で記した日記。
重要古語・語句:
- あやしき:粗末な、不思議な。
- やがて:そのまま、やがて。
- うつろふ:移る、映る。
- しみじみ:心に深く感じるさま。
- 船路:船の旅路。
【設問】
【問1】作者たちが土佐を離れて感じたこととして本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 故郷との別れの悲しみ
- 新しい町への期待
- 旅の楽しさ
- 商いの準備
- 都のにぎわい
【問1 正解と解説】
正解:1
「いとど遠ざかる故郷を眺めて、涙落ちぬ」とある。
【問2】船旅の夜の情景描写として本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 波の音と月の光が物悲しい景色を作った
- 灯りがにぎやかにともった
- 楽器の音が響いていた
- 雪が積もっていた
- 星が一つも見えなかった
【問2 正解と解説】
正解:1
「波の音に心を添へて夜を明かしけり」「月の光、波の上にうつろひ、物悲しき景色」とある。
【問3】作者たちが船旅でしていたこととして本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 都の話をしながら夜を明かした
- 魚をとっていた
- 踊りを踊っていた
- 和歌を詠んでいた
- 絵を描いていた
【問3 正解と解説】
正解:1
「皆、声をひそめて都の話などしつつ」とある。
【問4】『土佐日記』の特徴として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 国司としての土佐赴任から都帰京の旅を仮名文で記した日記文学
- 武士の活躍を記す軍記物語
- 仏教説話中心の説話集
- 恋愛歌物語
- 都の四季を描いた和歌集
【問4 正解と解説】
正解:1
『土佐日記』は国司としての赴任と都への帰京を女性仮託の仮名文で記した日記文学である。