古文対策問題 088(大鏡「道長の栄華」長文)

【本文】

かの御時、道長公の御勢ひ、いと限りなく、世の栄華の頂きにのぼり給へり。
百官万民、ことごとく道長に仕へ奉り、朝廷の政も一に御心のままなり。
ある日、道長公、御前に人々集めて、「この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば」と詠み給ふ。
人々、かくまでの世を得たる人の姿、いと尊く見奉る。
しかれども、栄華きはまれる後は、必ず衰ふる例、昔より絶えず。
大鏡の翁、これを伝へて、栄枯盛衰の道理を後の世に語り残しける。

【現代語訳】

その時代、道長公の勢いは限りなく、世の栄華の頂点に登りつめていた。
百官や民すべてが道長に仕え、朝廷の政治もすべて彼の思うままだった。
ある日、道長公は人々を前に集めて「この世を自分の世と思う。満月のように欠けることもないと思う」と詠んだ。
人々はこのような世を手に入れた道長の姿をとても尊いと仰ぎ見た。
しかし、どれほどの栄華も頂点を極めた後には必ず衰えるという例は昔から絶えない。
大鏡の翁はこれを伝え、栄枯盛衰の道理を後の世に語り残したのであった。

【覚えておきたい知識】

文学史・古文常識:

  • 作者:未詳。平安末期の歴史物語。
  • 作品:『大鏡』。藤原道長など摂関家の栄華とその盛衰を描く。
  • 道長:藤原道長。平安中期の摂関政治の頂点に立った人物。
  • 望月:満月。

重要古語・語句:

  • 御勢ひ:勢い、ご威勢。
  • 仕へ奉る:お仕え申し上げる。
  • 政:政治。
  • 栄枯盛衰:栄えることと衰えること。
  • 翁:老人、語り手。

【設問】

【問1】道長が「この世をば我が世とぞ思ふ」と詠んだ心情として本文内容に最も合うものを一つ選べ。

  1. 自分の権勢が満ち満ちているという誇り
  2. 戦いの決意
  3. 別れの悲しみ
  4. 人への感謝
  5. 仏道修行への憧れ
【問1 正解と解説】

正解:1

「望月の 欠けたることも なしと思へば」とも詠み、絶頂の誇りを示している。

【問2】『大鏡』の語り手が伝えたい主題として本文内容に最も合うものを一つ選べ。

  1. どんな栄華もやがて衰えるという栄枯盛衰の道理
  2. 武士の戦いの勇敢さ
  3. 貴族の日常の細やかさ
  4. 都の美しさ
  5. 旅の苦労
【問2 正解と解説】

正解:1

「栄華きはまれる後は、必ず衰ふる例」と明記されている。

【問3】道長の権勢が「望月」にたとえられている理由として最もふさわしいものを一つ選べ。

  1. 満ち欠けなく満ちている様子を象徴するから
  2. 夜が長いから
  3. 秋の情緒を感じさせるから
  4. 都の夜景が美しいから
  5. 恋の成就を表すから
【問3 正解と解説】

正解:1

「欠けたることもなし」と詠み、欠けるところなく満ちた状態を象徴している。

【問4】『大鏡』の全体的な特徴として最もふさわしいものを一つ選べ。

  1. 歴史上の人物の盛衰や教訓を語る歴史物語である
  2. 恋愛歌物語である
  3. 仏教説話中心の説話集である
  4. 農民の生活を記す日記文学である
  5. 短編説話集である
【問4 正解と解説】

正解:1

『大鏡』は歴史的人物の盛衰や教訓を語る歴史物語である。

レベル:やや難|更新:2025-07-25|問題番号:088