古文対策問題 087(和泉式部日記「恋文を送る」長文)
【本文】
春の夕暮れ、和泉式部、思ふ人を忍びて、そっと恋文を書き給ふ。
「逢はぬ夜のつれなきほどを思ひやる 袖のみ濡るる春の夕暮れ」
文の端に涙の跡しるく、心のうち乱れたるままに、使ひに託して送り給ふ。
返事を待つ間、ただ胸のうち騒がしく、夜もすがら臥しがたく思ひわづらふ。
やがて返歌ありて、「袖の露けさを人知れず思ふなりけり」とあり。
和泉式部、さめざめと涙を流し、心の奥にひそやかなる喜び覚え給ふ。
【現代語訳】
春の夕暮れ、和泉式部は思い人をひそかに想いながら、そっと恋文を書いた。
「逢えない夜の冷淡な時間を思いやると、袖ばかりが濡れる春の夕暮れです」という和歌である。
文の端には涙の跡がはっきりとつき、心が乱れるままに使いの者に託して送った。
返事を待つ間、胸が騒いで夜も寝つけずに思い悩む。
やがて返歌が届き、「袖の露けさを誰にも知られずに思っています」とあった。
和泉式部は静かに涙を流し、心の奥にひそやかな喜びを覚えた。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:和泉式部。平安中期の女流歌人・恋愛日記文学の作者。
- 作品:『和泉式部日記』。恋愛の心情や和歌のやり取りを綴る。
- 恋文:恋心を伝える手紙。
- 返歌:和歌による返事。
重要古語・語句:
- 忍ぶ:こっそりとする。
- つれなき:冷淡な。
- 袖のみ濡るる:涙で袖が濡れる。
- 臥しがたし:寝つけない。
- 露けし:涙や露に濡れている様子。
【設問】
【問1】和泉式部が恋文を書いた情景として本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 春の夕暮れ、ひそかに書いた
- 都の昼下がり、賑やかに書いた
- 冬の朝、家族と共に書いた
- 旅の宿で書いた
- 友人の前で堂々と書いた
【問1 正解と解説】
正解:1
「春の夕暮れ、和泉式部、思ふ人を忍びて、そっと恋文を書き給ふ」と本文にある。
【問2】恋文の中に詠まれた和歌の内容として本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 逢えない夜のつらさと涙を詠んだ
- 新しい季節の喜びを詠んだ
- 旅の思い出を詠んだ
- 友との別れを詠んだ
- 家族の幸せを詠んだ
【問2 正解と解説】
正解:1
「逢はぬ夜のつれなきほどを思ひやる 袖のみ濡るる春の夕暮れ」と詠まれている。
【問3】和泉式部が返事を待つ間に感じていたこととして本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 胸が騒いで臥しがたく思い悩んだ
- すぐに忘れてしまった
- 楽しく過ごした
- 別の人に恋文を書いた
- 歌を詠むことだけを考えた
【問3 正解と解説】
正解:1
「夜もすがら臥しがたく思ひわづらふ」とある。
【問4】『和泉式部日記』の特徴や意義として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 女性の繊細な心情や和歌のやり取りを綴る恋愛日記文学である
- 戦いの記録である
- 農民の生活を描く日記である
- 仏教説話中心の説話集である
- 武士の活躍を描く軍記物語である
【問4 正解と解説】
正解:1
『和泉式部日記』は女性の繊細な心情や和歌のやり取りをつづる恋愛日記文学である。