古文対策問題 082(更級日記「物語に心奪はる」長文)
【本文】
幼き日より、物語の世界に心を奪はれて、日暮らし本を読むことのみ楽しみなりき。
母の目を忍びて、灯の下にひそかに巻物を開けば、夢と現の区別もつかぬほどなり。
「いづれの世にも、この物語の中に生きばや」と、現実の憂きこと忘れて、はるかな昔の宮人や姫君の暮らしにあこがれぬ。
時に母に見とがめられて、巻物を取り上げられ、泣く泣く夜を明かしけり。
それより後も、物語の一節一節を心に刻みて、世の憂きことあるごとに思ひ出でては慰めとせし。
【現代語訳】
幼いころから物語の世界に心を奪われ、毎日本を読むことだけが楽しみだった。
母の目を盗んで灯りの下でこっそり巻物を広げると、夢と現実の区別もつかないほど没頭した。
「どの時代でも、この物語の中で生きてみたい」と、現実のつらいことを忘れて、はるか昔の宮中の人や姫君の暮らしに憧れた。
ときどき母に見つかって巻物を取り上げられ、泣きながら夜を明かした。
それ以後も、物語の一節一節を心に刻み、つらいことがあるたびに思い出しては慰めとした。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)。平安中期の女流日記文学作家。
- 作品:『更級日記』。物語への憧れや成長を綴る日記文学。
- 現:現実、うつつ。
- 憂きこと:つらいこと、苦しいこと。
重要古語・語句:
- 忍ぶ:こっそりと行う。
- いづれの世にも:どの時代にも。
- あこがる:憧れる。
- 見とがむ:見とがめる、気づいて叱る。
- 慰む:慰めとする。
【設問】
【問1】筆者が物語に心を奪われた理由として本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 現実の憂きことを忘れられるから
- 母の勧めがあったから
- 友人と競い合ったから
- 旅をしたかったから
- 和歌を学ぶため
【問1 正解と解説】
正解:1
「現実の憂きこと忘れて、はるかな昔の宮人や姫君の暮らしにあこがれぬ」とある。
【問2】母に見とがめられて筆者がどうしたか、本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 泣きながら夜を明かした
- 本を隠した
- 新しい本を求めた
- 母に謝った
- 兄弟と語り合った
【問2 正解と解説】
正解:1
「泣く泣く夜を明かしけり」と明記されている。
【問3】筆者が成長後も物語を大切にした理由として本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 世の憂きことあるごとに慰めとしていたから
- 物語を書こうとしたから
- 和歌を詠むため
- 宮仕えのため
- 人と語るため
【問3 正解と解説】
正解:1
「世の憂きことあるごとに思ひ出でては慰めとせし」とある。
【問4】『更級日記』の全体的な特徴として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 物語への憧れや成長、心の動きを綴る日記文学
- 武士の戦いの記録である
- 仏教説話中心の説話集である
- 歌物語である
- 政治の記録である
【問4 正解と解説】
正解:1
『更級日記』は物語への憧れと少女の成長・心情を細やかに綴る日記文学である。