古文対策問題 081(堤中納言物語「虫めづる姫君」長文)
【本文】
むかし、ある姫君、虫を好み給ふこと、世の常ならず。
蛍や蝶は言ふに及ばず、毛虫や蜂までも、「いとをかしきもの」とて手に取り、眺めては詠歌し給ふ。
これを見て、女房たち、「姫君のご趣味、いと変なり」とひそかに語り合へり。
しかし姫君は、「人の目を恐れず、心のままにをかしきものを愛でるこそ、まことの趣なり」と笑みて言ひ給ふ。
姫君の心の広さと才知、やがて宮中に伝わり、多くの人に慕われ給ひけるとかや。
【現代語訳】
昔、ある姫君が虫を好まれることは普通ではなかった。
蛍や蝶はもちろん、毛虫や蜂まで「とても趣深いもの」と言って手に取り、眺めては歌を詠まれていた。
これを見た女房たちは「姫君のご趣味はとても変わっている」とひそかに話し合った。
しかし姫君は「人の目を恐れず、心のままに趣あるものを愛でることこそ本当の趣だ」と笑っておっしゃった。
姫君の心の広さと賢さはやがて宮中に伝わり、多くの人に慕われたという。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:未詳。平安末期の短編物語。
- 作品:『堤中納言物語』。宮廷の女性や逸話を描く短編集。
- 虫めづる姫君:虫を愛でる風変わりな姫君の物語。
- 詠歌:和歌を詠むこと。
重要古語・語句:
- 給ふ:~なさる、尊敬語。
- いとをかしきもの:とても趣深いもの。
- ひそかに:こっそりと。
- 心のまま:自分の思うままに。
- 慕ふ:慕う、尊敬し親しむ。
【設問】
【問1】姫君が「いとをかしきもの」として愛でたものとして本文内容に合うものを一つ選べ。
- 毛虫や蜂
- 都の景色
- 宮中の宝物
- 和歌の巻物
- 香の道具
【問1 正解と解説】
正解:1
「毛虫や蜂までも、いとをかしきもの」と記されている。
【問2】姫君の趣味について女房たちはどう感じていたか、本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- とても変わっていると感じていた
- 羨ましいと思っていた
- まったく気にしていなかった
- 都の風習として当然だと思っていた
- 怖がっていた
【問2 正解と解説】
正解:1
「いと変なりとひそかに語り合へり」と明記されている。
【問3】姫君が大切にしていた美意識として本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 人の目を恐れず、心のままに趣あるものを愛でること
- 決められた伝統だけを守ること
- 高価なものを集めること
- 誰かの評価を得ること
- 宮中の規則に従うこと
【問3 正解と解説】
正解:1
「人の目を恐れず、心のままにをかしきものを愛でるこそ、まことの趣なり」と姫君が述べている。
【問4】この物語を含む『堤中納言物語』の特徴として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 宮廷の女性たちの個性や逸話を描く短編集である
- 武士の活躍を描く物語である
- 農民の生活を描く説話である
- 仏教説話中心の説話集である
- 恋愛歌物語である
【問4 正解と解説】
正解:1
宮廷の女性の逸話や美意識を描くのが『堤中納言物語』の特徴である。