古文対策問題 077(蜻蛉日記「旅の別れ」長文)
【本文】
旅立ちの日、朝まだきに車を出だす。
我が子の寝顔をしばし見つめ、涙とどまらず。
「いかにしてかく別れを忍ばむ」と独りごち、衣の袖ぬらしぬ。
道すがら、昔の日々のこと思ひ出でつつ、心細さに耐へかねて、和歌を詠む。
「別れ路の 行く先遠く 思ふにも 君が面影 夢にぞ見ゆる」
いとど涙深く、やがて旅の空に紛れぬ。
【現代語訳】
旅立ちの日、朝早くに車を出す。
わが子の寝顔をしばらく見つめ、涙が止まらない。
「どうしてこのような別れに耐えられるだろう」と独りごとを言い、袖を涙で濡らした。
道中、昔の日々を思い出し、心細さに耐えきれず、和歌を詠んだ。
「別れの道の行く先は遠く思われても、あなたの面影が夢に見えるでしょう」という意味の歌である。
いっそう涙があふれ、やがて旅の空に紛れていった。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:藤原道綱母(ふじわらのみちつなのはは)。平安中期の女流日記文学作家。
- 作品:『蜻蛉日記』。自身の結婚生活や子への思い、旅や別れなどをつづる。
- 旅立ち:当時の旅は長く危険も多かった。
- 和歌:気持ちや状況を詠んで表現する文化。
重要古語・語句:
- 車:牛車、旅の移動手段。
- 忍ぶ:こらえる、我慢する。
- ぬらす:濡らす。
- 心細し:心細い、不安である。
- いとど:いっそう。
【設問】
【問1】筆者が旅立ちの日に最も強く感じていたこととして本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- わが子との別れの悲しさ
- 新しい土地への期待
- 都のにぎわい
- 宴の楽しさ
- 船旅の危険
【問1 正解と解説】
正解:1
「我が子の寝顔をしばし見つめ、涙とどまらず」とあり、別れの悲しみが最も強く表現されている。
【問2】道中で筆者が詠んだ和歌の主題として本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 別れの悲しみと相手への思い
- 旅の楽しみ
- 季節の移ろい
- 土地の名所
- 道中の危険
【問2 正解と解説】
正解:1
「別れ路の 行く先遠く 思ふにも…」と別れや相手への思いを詠んでいる。
【問3】『蜻蛉日記』の特徴や意義として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 女性の視点で家族や心情、日常をつづる日記文学
- 武士の戦いの記録である
- 宗教的な説話が中心である
- 都の政治を描いた物語である
- 旅のガイドブックである
【問3 正解と解説】
正解:1
『蜻蛉日記』は女性の視点で日々の感情や家庭の出来事を綴る日記文学である。
【問4】この場面での筆者の行動や感情として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 涙を流しながらも和歌に思いを託した
- 新たな旅を楽しみにしていた
- 宴会を開いていた
- 景色を写生していた
- 土産を買い求めていた
【問4 正解と解説】
正解:1
「涙深く、やがて旅の空に紛れぬ」とあり、悲しみを和歌に込めている。