古文対策問題 076(徒然草「高名の木登り」長文)
【本文】
高名の木登りの、木より下りけるを見て、人々、「いかにして落ちざりける」と問ひければ、「上るときは、親方の教へけることを思ひ出だして、慎みて上りつ。下るときは、油断して、などてか落ちざらむと思ふほどに、危ふきなり」と答へけり。
またある時、子どもに木登りを教ふるに、「危ふき所は、見知れる者の下にて、教へて下ろすべし。初心の者は、我が危ふき所を見知りたることなし」といふ。
この道ばかりならず、何事も、熟達したる人こそ、油断なく慎しみ深く、心を用ゆるべけれ、とぞ。
【現代語訳】
有名な木登りの名人が木から降りるのを見て、人々が「どうして落ちなかったのか」と尋ねた。名人は「登る時は親方の教えを思い出して慎重に登りました。降りる時は油断して『どうして落ちようか、いや落ちるはずがない』と思ってしまいがちなので、むしろ危ないのです」と答えた。
また、ある時、子どもに木登りを教えるときは「危ない所は、よく知っている者が下で見て、教えながら降ろすべきだ。初心者は自分がどこが危ないかわかっていないから」と言った。
このことは木登りだけでなく、何事も熟練した人ほど油断せず、慎重に心を用いるべきだ、ということである。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:吉田兼好(よしだけんこう)。鎌倉末~南北朝期の随筆家・歌人。
- 作品:『徒然草』。日常の出来事や人生観を随筆として綴る。
- 親方:親方、師匠。
- 初心の者:初心者。
重要古語・語句:
- 油断:注意を怠ること。
- 慎しみ:慎重さ。
- 心を用ゆ:注意を払う、心を配る。
- べけれ:〜べきである。
【設問】
【問1】木登りの名人が「下るときこそ危ない」と言った理由として本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 油断しやすくなるから
- 力が尽きるから
- 枝が折れやすいから
- 他人が見ていないから
- 風が強いから
【問1 正解と解説】
正解:1
「下るときは、油断して…危ふきなり」と明記されている。
【問2】名人が子どもに木登りを教える時に重視していたこととして本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 危ない場所を熟知した者が下で見て教える
- 一人で練習させる
- できるだけ高く登らせる
- 枝の種類を教える
- 友達と競争させる
【問2 正解と解説】
正解:1
「見知れる者の下にて、教へて下ろすべし」と本文にある。
【問3】本文が説く教訓として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 熟練した人ほど油断せず慎重であるべきだ
- 初心者こそ大胆でよい
- 失敗を恐れてはならない
- 木登りは一人で挑戦すべきだ
- 道具の使い方を学ぶべきだ
【問3 正解と解説】
正解:1
「熟達したる人こそ、油断なく慎しみ深く…心を用ゆるべけれ」と明記されている。
【問4】『徒然草』の全体的な特徴として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 日常や人生の教訓・考察を随筆としてまとめる
- 武士の戦いを記録する
- 宮廷の物語を描く
- 旅の記録を中心にする
- 恋愛を主題とする
【問4 正解と解説】
正解:1
『徒然草』は人生や日常の中のさまざまな考察や教訓を随筆形式で記した作品である。