古文対策問題 075(伊勢物語「東下り」長文)
【本文】
昔、男ありけり。京の都を離れて、東の国へ下りける。
旅の途中、三河の国八橋といふ所にいたり、川のほとりのかきつばたの花のいと美しく咲きたるを見て、心に思ふことありて歌を詠めり。
「から衣 きつつなれにし つましあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ」
旅の空、遠く離れた妻を思ひ出し、友とともに涙を流しけり。
その後も、さまざまなる名所を巡り、東国の風物に触れては歌を詠みつつ、都への思いを深くせり。
【現代語訳】
昔、ある男がいた。都を離れて東国へ下っていった。
旅の途中、三河の国の八橋という場所に着き、川辺に美しく咲くかきつばたの花を見て、心に思うことがあり歌を詠んだ。
「着なれた衣のように親しんだ妻がいるので、はるばると旅してきたこの旅をしみじみと思う」という意味の歌である。
旅の空で、遠く離れた妻を思い出し、友とともに涙を流した。
その後もいろいろな名所を巡り、東国の風物に触れては歌を詠み、都への思いを深めていった。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:在原業平(ありわらのなりひら)と伝わる。平安初期の歌物語。
- 作品:『伊勢物語』。和歌と物語が交互に綴られる歌物語。
- 東下り:都から東国へ下ること。物語の名場面。
- かきつばた:八橋の名所、歌の題材。
重要古語・語句:
- 下りける:下っていった。
- つま:妻。
- はるばる:遠く離れて。
- 思ふ:しみじみと感じる、恋い慕う。
- きつつなれにし:着なれた(親しんだ)の意。
【設問】
【問1】主人公が八橋で詠んだ歌の内容として本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 遠く離れた妻への思いを詠んだ
- 旅の楽しさを詠んだ
- 都の景色を讃えた
- 友人との再会を喜んだ
- 季節の移り変わりを詠んだ
【問1 正解と解説】
正解:1
「つましあれば(妻がいるので)、はるばる来ぬる旅を思う」と歌っている。
【問2】主人公が旅の途中で感じた心情として本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 妻を恋い慕い、都を思った
- 東国の風物に驚いた
- 友人と再会できて喜んだ
- 新しい土地での生活に満足した
- 旅が早く終わることを願った
【問2 正解と解説】
正解:1
「遠く離れた妻を思ひ出し」「都への思いを深くせり」とある。
【問3】伊勢物語「東下り」の場面が持つ意義として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 旅先での望郷と恋の情を和歌で表現する
- 都での栄華を描く
- 武士の戦いを記録する
- 宗教的修行を記す
- 農民の暮らしを描く
【問3 正解と解説】
正解:1
八橋での歌は「旅先での望郷と恋の情」を象徴している。
【問4】『伊勢物語』の特徴として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 和歌と物語が交互に綴られる歌物語
- 日記文学
- 歴史物語
- 説話集
- 紀行文
【問4 正解と解説】
正解:1
『伊勢物語』は和歌と物語が交互に綴られる歌物語である。