古文対策問題 074(土佐日記「船出」長文)
【本文】
それの年の十二月二十日あまり一日、土佐の国を出でて、京に向かふ。
船の上にて、波風の荒きに、いと心細し。
夜もすがら、波の音、風の声、船子どもの叫びあふを聞きつつ、寝もやらず。
暁がた、海のかなたに白きもの見えければ、「あれは何ぞ」と問ひけるに、「これは阿波の国なり」と船子の答ふ。
京に帰らんと思ふ心は、さらに静かならず。
いとど親子の別れの悲しさ、旅の空のもの寂しさ、いみじく思ひ知らる。
【現代語訳】
その年の十二月二十一日、土佐の国を出発して都に向かう。
船の上で、波や風が荒く、とても心細い。
夜通し、波の音や風の声、船乗りたちの叫び声を聞きながら、眠ることもできない。
明け方、海のかなたに白いものが見えたので「あれは何か」と尋ねると、「あれは阿波の国です」と船乗りが答えた。
都に帰ろうと思う心はまったく静まらない。
いよいよ親子の別れの悲しさや旅の寂しさを、ひしひしと感じる。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:紀貫之(きのつらゆき)。平安前期の歌人・国司。
- 作品:『土佐日記』。女性のふりをして書かれた最古の日記文学。
- 土佐:現在の高知県。
- 阿波の国:現在の徳島県。
重要古語・語句:
- いと:とても。
- 寝もやらず:眠ることもできない。
- いとど:ますます。
- いみじく:ひしひしと、とても。
- もの寂しさ:寂しさ。
【設問】
【問1】筆者が船出の夜に感じていた気持ちとして本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 心細さや寂しさ
- 楽しさや期待
- 怒りや不安
- 無関心
- 勇気と自信
【問1 正解と解説】
正解:1
「波風の荒きに、いと心細し」「旅の空のもの寂しさ」と本文に明記されている。
【問2】夜明けに船から見えた「白きもの」とは何か、本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 阿波の国
- 京の町
- 親子の家
- 船乗りの着物
- 雲
【問2 正解と解説】
正解:1
「これは阿波の国なり」と船子が答えている。
【問3】『土佐日記』の筆者が旅の中で特に感じていたこととして本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 親子の別れの悲しさや寂しさ
- 都の豪華さ
- 船旅の楽しさ
- 新しい土地の興味深さ
- 宴会の楽しさ
【問3 正解と解説】
正解:1
「いとど親子の別れの悲しさ、旅の空のもの寂しさ」と本文に明記されている。
【問4】『土佐日記』の特徴や意義として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 日本最古の日記文学であり、旅の心情や情景を細やかに描く
- 武士の戦を記録した物語である
- 宗教的な修行の日々を記録したものである
- 農民の生活を描いたものである
- 歌論や和歌集である
【問4 正解と解説】
正解:1
『土佐日記』は旅の心情や情景を日記形式で細やかに描いた日本最古の日記文学である。