古文対策問題 073(方丈記「ゆく河の流れ」長文)
【本文】
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。
淀みに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。
世の中にある人と栖(すみか)と、またかくのごとし。
玉しきの都のうちに、棟を並べ、甍(いらか)を争へる、高き、いやしき人の住まひは、世々を経て尽きせぬものなれど、これをまことかと尋ぬれば、昔ありし家はまれなり。
或は去年(こぞ)焼けて、今年作れり。あるいは大家(たいけ)、亡びて小家(こいえ)となる。住む人も、これに同じ。所も変はらず、人も多かれど、いにしへ見し人は、二三十人が中に、わづかに一人二人なり。
【現代語訳】
流れる川の流れは絶えることがなく、それでいて同じ水ではない。
よどみに浮かぶ泡は、消えては生まれ、長くとどまることはない。
世の中の人や住まいも同じである。
都の中に立ち並ぶ家々、高い屋敷も低い家も、時代を経てなくならないように見えるが、実際に昔から残っている家はまれである。
去年焼けて今年建てられる家もあり、大きな家が小さな家になることもある。住む人も同じで、場所は変わらず人は多いけれど、昔見た人は二三十人の中にわずか一人か二人しかいない。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:鴨長明。鎌倉初期の随筆家・歌人。
- 作品:『方丈記』。世の無常や人の生き方を考察する随筆。
- うたかた:水面に浮かぶ泡、はかないものの象徴。
- 玉しきの都:華やかな都、平安京のこと。
重要古語・語句:
- 絶えずして:絶えないで。
- かつ~かつ~:~しつつ~しつつ。
- 久しくとどまりたるためしなし:長くとどまった例がない。
- まことかと尋ぬれば:本当かと調べてみると。
- いにしへ:昔。
【設問】
【問1】冒頭「ゆく河の流れは絶えずして…」が象徴しているものとして最もふさわしいものを一つ選べ。
- 世の無常・変化のはかなさ
- 川の水質調査
- 都の治安の良さ
- 農業の発展
- 家の大きさの違い
【問1 正解と解説】
正解:1
絶え間なく流れる川の水と、変化し続ける人や世のはかなさ(無常)が重ねて描かれている。
【問2】都の家々や住む人々について述べていることとして本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 昔から残る家や人はごくわずかである
- すべての家は昔のままである
- 新しい家だけが建てられている
- 人は皆同じ家に住み続けている
- 都は人がほとんど住んでいない
【問2 正解と解説】
正解:1
「昔ありし家はまれなり」「いにしへ見し人は…わづかに一人二人なり」と本文に明記されている。
【問3】「淀みに浮かぶうたかた」のたとえが象徴するものとして最もふさわしいものを一つ選べ。
- 人や住まいのはかなさ
- 農作物の豊かさ
- 都の治安
- 武士の勇敢さ
- 寺院の荘厳さ
【問3 正解と解説】
正解:1
泡(うたかた)がすぐ消えてしまうように、人や住まいも長くは続かない、という象徴的なたとえである。
【問4】『方丈記』の冒頭に描かれている主題として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 世の無常と人の儚い生
- 武士の栄光
- 四季の美しさ
- 恋愛の喜び
- 旅の楽しみ
【問4 正解と解説】
正解:1
川や家、人をめぐる描写のすべてが「無常観」を主題にしている。