古文対策問題 072(枕草子「うつくしきもの」長文)
【本文】
うつくしきもの。瓜にかきたるちごの顔。すずめの子の、ねず鳴きていとちひさき。葵のいとちひさきを、はひ出でたる。蓮のうへに、すこしおぼろけなる水のたまれる。雀の、親のあとにちひさくうちまじりて行く。
いと小さく、愛らしく、心引かれるもの、世に数多し。
また、をかしきもの。春の夜の、月の光に照らされたる庭。白き藤の花の、風にゆるる。夏の夕暮れ、竹の葉の間より、ほたるの光るを見つけたる。
日々の中に、ささやかなる美しさ、いと多く、心とどめて眺めるは楽しきことなり。
【現代語訳】
かわいらしいもの。瓜に描かれた赤ん坊の顔。すずめの子が鳴いてとても小さい。アオイのとても小さい芽がはい出た様子。蓮の葉の上に少しだけたまった水。雀の子が親のあとについて小さく混じっていく様子。
とても小さくて、愛らしくて、心引かれるものは世の中にたくさんある。
また、趣深いもの。春の夜、月の光に照らされた庭。白い藤の花が風に揺れている様子。夏の夕暮れ、竹の葉の間から蛍の光るのを見つけたとき。
日々の中に、ささやかな美しさがとても多くあり、心をとめて眺めるのは楽しいことだ。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:清少納言。平安中期の女流随筆家。
- 作品:『枕草子』。日々の暮らしの美しさや趣を鋭く観察。
- うつくしきもの:かわいらしいもの、愛らしいもの。
- をかしきもの:趣深いもの。
重要古語・語句:
- ちご:赤ん坊、幼児。
- はひ出づ:はい出る、芽生える。
- をかし:趣がある、美しい。
- いと:とても。
- 心とどむ:心を止める、注目する。
【設問】
【問1】「うつくしきもの」として挙げられているものに該当しないものを一つ選べ。
- 春の夜の月に照らされた庭
- 瓜に描かれた幼児の顔
- すずめの子が鳴く様子
- 葵の芽がはい出る様子
- 蓮の葉にたまった水
【問1 正解と解説】
正解:1
「春の夜の月に照らされた庭」は「をかしきもの(趣深いもの)」として後半で挙げられている。
【問2】「をかしきもの」の例として本文内容に合うものを一つ選べ。
- 春の夜の月の光に照らされた庭
- 瓜にかきたるちごの顔
- すずめの子の鳴く様子
- 葵の芽がはい出る様子
- 蓮の葉の上の水
【問2 正解と解説】
正解:1
「春の夜の、月の光に照らされたる庭」は「をかしきもの(趣深いもの)」として挙げられている。
【問3】清少納言が日々の暮らしの中で大切にしている感性として最もふさわしいものを一つ選べ。
- ささやかな美しさや趣を見出す心
- 大きな事件だけに注目する心
- 政治的事件を記録する心
- 宗教的教訓を重んじる心
- 旅の記録を重視する心
【問3 正解と解説】
正解:1
「日々の中に、ささやかなる美しさ、いと多く、心とどめて眺める」と本文に明記されている。
【問4】この一節に特徴的な『枕草子』の美意識として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 日常の小さなものにも美を見いだす感受性
- 恋愛の駆け引きを描く
- 戦乱の苦しみを描く
- 仏教の教義を説く
- 豪華な宮廷の宴を記録する
【問4 正解と解説】
正解:1
小さく愛らしいものやささやかな趣を美と感じる感受性が『枕草子』の特徴である。