古文対策問題 071(堤中納言物語「花桜折る少将」長文)
【本文】
春のころ、少将といふ若き貴公子ありけり。花の盛りの桜のもとに馬を寄せて、枝を折り取り、袖にさしつつ歩みぬ。
道ゆく人々、「花の下にてかく折りし桜、いと美しく、少将の姿にふさはし」と語り合ふ。
その日、館に帰りて、折り取れる桜の枝を盃に浮かべ、友とともに酒を酌み交はし、詩を詠みて夜を明かす。
しかる後、桜の花は散りぬれど、少将の名は花とともに人の語り草となりにけり。
【現代語訳】
春のころ、少将という若い貴族がいた。桜が満開の木の下に馬を寄せて、枝を折り、袖に差して歩いた。
道行く人々は「花の下でこうして折られた桜はとても美しく、少将の姿によく似合う」と語り合った。
その日、館に帰って、折り取った桜の枝を盃に浮かべ、友人と酒を酌み交わし、詩を詠んで夜を明かした。
その後、桜の花は散ってしまったが、少将の名は花とともに人々の話題となった。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:未詳。平安末期の短編物語。
- 作品:『堤中納言物語』。さまざまな女性や貴族の逸話を収める短編集。
- 少将:若い貴族、官職名。
- 詩:中国風の詩や和歌。
重要古語・語句:
- 盛り:最も美しい時。
- ふさはし:似合う、ふさわしい。
- 語り草:話題になること。
- しかる後:その後。
- 盃に浮かべ:酒の器に桜の枝を浮かべて飲む風流な遊び。
【設問】
【問1】少将が桜の枝を折って袖に差した理由として本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 桜の美しさを楽しみ、風流を味わうため
- 道に迷った目印にしたかったから
- 誰かに贈るため
- 神事のため
- 薬にするため
【問1 正解と解説】
正解:1
「花の盛りの桜のもとに…袖にさしつつ歩みぬ」とある通り、風流・美しさを楽しむためである。
【問2】少将が館に帰って行ったこととして本文内容に合うものを一つ選べ。
- 桜の枝を盃に浮かべて友と酒を酌み交わした
- すぐに寝てしまった
- 桜の枝を家族に贈った
- 神前に供えた
- 詩を書き写しただけで何もしなかった
【問2 正解と解説】
正解:1
「折り取れる桜の枝を盃に浮かべ、友とともに酒を酌み交はし、詩を詠みて夜を明かす」と本文に記されている。
【問3】桜の花が散った後も少将の名が人々に語り草となった理由として本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 桜の下での風流な行動が印象的だったから
- 戦で大きな手柄を立てたから
- 都を離れたから
- 詩を多く残したから
- 旅に出たから
【問3 正解と解説】
正解:1
「少将の名は花とともに人の語り草となりにけり」とある通り、その風流なふるまいが人々の印象に残ったためである。
【問4】この一節を含む『堤中納言物語』の特徴として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 宮廷の人々の趣味や美意識、逸話を描く短編集である
- 戦記物語である
- 宗教説話である
- 旅日記である
- 農民の生活を描く物語である
【問4 正解と解説】
正解:1
宮廷の美意識や風流、貴族の日常や逸話を描く短編集が『堤中納言物語』の特徴である。