古文対策問題 067(和泉式部日記「恋文のやりとり」長文)
【本文】
いと夜深く、月の光さやかなるころ、式部、心に思ふことありて、君に文をやりける。「夜の間に月をのみ見つつ思ひわびて」と詠みつつ、袖をぬらしぬ。
君よりすぐに返事来たり。「月影に照らす涙は袖にしみて、いづれが深き思ひならむ」と、返歌あり。
式部は返事の文を手に取り、しばし涙にくれてものも言はず。
その夜は明け方まで、ただ月を眺めて、君の面影を思ひやりつつ過ごしけり。
明け方、庭に降り立ちて、花の露を袖に受け、「恋の心は、いとど深くなりにけり」と、ひとりごちける。
【現代語訳】
とても夜が更け、月の光がはっきりとしているころ、和泉式部は思いを胸に秘めて、君に手紙を送った。「夜の間に月ばかり見つめながら、思い悩んでいます」と詠みながら、袖をぬらした。
君からすぐに返事が来た。「月の光に照らされた涙は袖にしみて、どちらの思いが深いのだろう」と返歌があった。
式部は返事の手紙を手に取って、しばらく涙にくれて何も言えなかった。
その夜は明け方まで、ただ月を眺め、君の面影を思いながら過ごした。
明け方、庭に降りて、花の露を袖に受けながら「恋の心はますます深くなった」と、ひとりごとを言った。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:和泉式部。平安中期の女流歌人。
- 作品:『和泉式部日記』。自身の恋と心情を歌と共に綴る。
- 返歌:贈られた歌への返事として詠む和歌。
- 袖をぬらす:涙で袖をぬらす、悲しみや恋心の表現。
重要古語・語句:
- いとど:ますます。
- 思ひわぶ:思い悩む。
- ひとりごつ:独り言を言う。
- ものも言はず:何も言わず。
- 思ひやる:遠く思いを馳せる。
【設問】
【問1】式部が夜、君に文をやった動機として本文内容に最も近いものを一つ選べ。
- 恋心に悩み、思いを伝えたかったから
- 旅立ちの挨拶をしたかったから
- 病気を知らせたかったから
- 贈り物を届けたかったから
- 都の噂話を伝えたかったから
【問1 正解と解説】
正解:1
「心に思ふことありて、君に文をやりける」とある通り、恋心・思い悩みが動機である。
【問2】君からの返歌の内容として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 涙と恋の深さを詠んだ
- 別れの言葉だった
- 旅の無事を願う歌だった
- 都の四季を詠んだ
- 花の美しさを讃えた
【問2 正解と解説】
正解:1
「月影に照らす涙は袖にしみて、いづれが深き思ひならむ」と、恋の深さ・涙の共感を詠んでいる。
【問3】式部が返事の文を受け取った時の様子として本文内容に最も近いものを一つ選べ。
- 涙にくれて何も言えなかった
- すぐに返歌を詠んだ
- 庭で舞を舞った
- 友人に読み聞かせた
- 宴会を開いた
【問3 正解と解説】
正解:1
「しばし涙にくれてものも言はず」と描かれている。
【問4】この場面を通して『和泉式部日記』の特徴として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 恋の心情を和歌と共に繊細に表現する
- 武勇伝を描く
- 庶民の暮らしを描写する
- 宗教的説話を中心とする
- 政治論争を描く
【問4 正解と解説】
正解:1
『和泉式部日記』は恋の心情や感情の機微を和歌とともに綴る点が最大の特徴である。