古文対策問題 065(更級日記「都への帰京」長文)
【本文】
やうやう都の近くにたどり着きて、山々のかすみ立ちたる景色、いと懐かし。
かねてより夢に見し都の門、昔のままに残れるを見て、涙のとどまらず。
旅の空に日を送りしこと、今は昔の夢のごとくなりて、馬より下り、手に土を取りては、「都の土にもかく思ひ入ることや」と、いみじく感ず。
久方ぶりに家に帰りて、親や兄弟と対面し、皆涙にむせびつつ昔語りをする。
しかし、心に描きし都の華やぎは、現実のうちには見出し難く、寂しさの残ることもありけり。
されど、物語の世界を夢見た日々も、現実のこの世も、ともに心のうちに大切なるものと思ひぬ。
【現代語訳】
だんだん都の近くにたどり着いて、山々にかすみがかかった景色がとても懐かしく感じられる。
以前から夢に見ていた都の門が昔のままに残っているのを見て、涙が止まらなかった。
旅の途中で過ごした日々も今となっては昔の夢のようで、馬から下りて土を手に取り、「都の土にもこんなに思いを寄せることがあるだろうか」と深く感じた。
久しぶりに家に帰って、親や兄弟と再会し、みな涙を流しながら昔話をした。
しかし心に思い描いていた都の華やかさは、現実の中にはなかなか見つからず、寂しさが残ることもあった。
それでも、物語の世界を夢見た日々も、現実のこの世も、どちらも心の中で大切なものだと思ったのであった。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)。平安中期の女流日記文学作家。
- 作品:『更級日記』。少女時代から都への帰京までの成長を描く。
- 門:都(京)の正門、象徴的な景色。
- 久方ぶり:長い年月を経て。
重要古語・語句:
- やうやう:しだいに、だんだん。
- とどまらず:止まらない。
- いみじく感ず:深く感じる。
- むせぶ:むせび泣く。
- いみじく:とても、たいそう。
【設問】
【問1】筆者が都に近づいた時の心情として本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 懐かしさと感動で涙した
- 怒りを感じた
- 恐怖に襲われた
- 都への興味を失った
- 旅を続けたくなった
【問1 正解と解説】
正解:1
「涙のとどまらず」「いみじく感ず」と感動と懐かしさが描かれている。
【問2】都の門を見たときの筆者の反応として本文内容に最も近いものを一つ選べ。
- 夢に見てきた景色に涙が止まらなかった
- すぐに家へ帰った
- 門が新しくなっていて驚いた
- 門の前で宴会を開いた
- 門の外で旅を続けた
【問2 正解と解説】
正解:1
「夢に見し都の門、昔のままに残れるを見て、涙のとどまらず」と明記されている。
【問3】帰京後、筆者が感じた都の印象について本文内容に最も近いものを一つ選べ。
- 心に描いた華やかさは現実には見出し難かった
- すぐに昔の暮らしを取り戻した
- 都の人々と毎日遊び歩いた
- 都で新しい物語を書き始めた
- 都の現実に満足した
【問3 正解と解説】
正解:1
「都の華やぎは、現実のうちには見出し難く」とある。
【問4】筆者が最後にたどり着いた思いとして、本文内容に最も近いものを一つ選べ。
- 物語の世界も現実の世もともに大切だと感じた
- 都を離れて再び旅に出る決意をした
- 物語を忘れて現実だけを見るようにした
- 都での寂しさに耐えられず泣き暮らした
- 家族とすぐに別れた
【問4 正解と解説】
正解:1
「物語の世界を夢見た日々も、現実のこの世も…大切なるものと思ひぬ」と本文に明記されている。