古文対策問題 064(堤中納言物語「虫めづる姫君」長文)
【本文】
あるところに、容貌も髪も人に劣らず美しき姫君おはしけり。されど、この姫、世の人の嫌ふものども、なかでも虫を愛でては、「蝶の羽の色は花にも劣らず、蟻の行き交ふさまもをかし」と、常に虫籠を手放さず。
父母や女房たち、「姫君たる者、かかる振る舞ひいとよしなかるべし」とたしなめけれど、姫は「世に定まりたる美しさのみを愛でるは、浅き心なり」と、ものともせず。
ある日、姫、朝露に濡れた蜘蛛の巣を見つけて、「いと見事なる細工なり」と褒めたたへ、女房たちはただ呆れける。
かくて姫は、世間の評判をも気にせず、虫とともに日を送り、誰よりも自由に心豊かに過ごしけり。
【現代語訳】
ある所に、顔も髪も他の人に劣らず美しい姫君がいた。しかしこの姫は、世の人々が嫌うもの、特に虫を愛していて、「蝶の羽の色は花にも劣らず、蟻の行き交う様子も面白い」と言い、いつも虫籠を手放さなかった。
父母や女房たちは「姫君たる者がこんなふるまいをするのはよくない」と注意したが、姫は「世間で決まっている美しさだけを愛でるのは浅はかだ」と気にも留めなかった。
ある日、姫は朝露で濡れた蜘蛛の巣を見て「とても見事な細工だ」と褒めた。女房たちはただ呆れるばかりだった。
こうして姫は、世間の評判を気にせず虫と共に日々を過ごし、誰よりも自由で心豊かに暮らした。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:未詳。平安末期の短編物語。
- 作品:『堤中納言物語』。個性豊かな女性たちを描く短編集。
- 虫めづる姫君:特に人気のある一編。個性や多様性を肯定する物語。
- 虫籠:虫を入れて観賞するための小箱。
重要古語・語句:
- 劣らず:劣っていない。
- 愛でる:愛しむ、感心する。
- よしなかるべし:よくないはずだ。
- 浅き心:浅はかな心。
- ものともせず:少しも気にせず。
- 呆る:あきれる。
【設問】
【問1】姫君が世間の価値観に対してどのようにふるまったか、本文内容に最も合うものを一つ選べ。
- 自分の好きなものを貫き、世間の評価を気にしなかった
- 世間の評判を気にして虫を手放した
- 両親の勧めで美術を学んだ
- 女房たちと一緒に歌を詠んだ
- 都に出て評判になった
【問1 正解と解説】
正解:1
「世間の評判をも気にせず、虫とともに日を送り」と明記されている。
【問2】姫君が朝露に濡れた蜘蛛の巣を見て感じたこととして正しいものを一つ選べ。
- とても見事な細工だと感心した
- 恐れて遠ざかった
- 父母に捨てさせた
- 歌を詠んだ
- 友人に手紙を書いた
【問2 正解と解説】
正解:1
「いと見事なる細工なり」と褒めたたえている。
【問3】姫君の生き方が象徴しているテーマとして最もふさわしいものを一つ選べ。
- 自分らしさや多様性の尊重
- 伝統に従うことの大切さ
- 学問の大切さ
- 家族の絆
- 都の暮らしの楽しさ
【問3 正解と解説】
正解:1
「誰よりも自由に心豊かに過ごしけり」とある通り、多様性や個性の肯定が大きなテーマである。
【問4】物語の中で父母や女房たちが姫君に対して取った態度として本文内容に合うものを一つ選べ。
- 虫を愛でる姫をたしなめた
- 姫の趣味を積極的に応援した
- 都に送り出した
- 姫のために虫を集めた
- 特に関心を示さなかった
【問4 正解と解説】
正解:1
「父母や女房たち、『かかる振る舞ひいとよしなかるべし』とたしなめけれど」と明記されている。