古文対策問題 061(徒然草「仁和寺の法師」長文)
【本文】
仁和寺にある法師、年ごろ京に住みて、心のうちに都の名所を尽くして見ばやと思ひけり。ある時、思ひ立ちて、ただ一人、仁和寺を出でて、道すがら名所を尋ね歩き、ついに石清水八幡宮に参詣しけり。
山上にのぼりて社頭を拝し、心のうちに深く感じ入りぬ。「さて、山を下りて、帰りなん」と思ひて、山を下りぬ。
かくて麓の茶屋にて憩ひ、茶をすすりつつ、「石清水は、いづくにか侍る」と問ひければ、茶屋の者、「ただ今拝みて下り給へるは、その石清水にて候ふ」と答へけり。
法師、はじめて社頭を見しと思ひしが、本宮の御前まで詣でず、ただ麓より拝みて帰りけることを、後に人の語り伝へて、いとおろかなりとぞ言ひける。
【現代語訳】
仁和寺にいる法師は、長年都に住み、「都の名所をすべて見てみたい」と思っていた。ある時、思い立ってひとりで仁和寺を出て、道すがら名所を訪ね歩き、ついに石清水八幡宮に参拝した。
山上に登って神社の前で手を合わせ、心の中で深く感動した。「さて、山を下りて帰ろう」と思い、山を下った。
そして麓の茶屋で休み、茶を飲みながら「石清水八幡宮はどこですか」と尋ねると、茶屋の者は「いま拝んで下りてこられたのが、その石清水八幡宮ですよ」と答えた。
法師は、初めて社頭(神社の前)を見たと思っていたが、本宮の前まで行かず、ただ麓から拝んで帰ってしまったことを、後になって人々が語り伝え、「なんと愚かなことだ」と言ったのだった。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:兼好法師(吉田兼好)。鎌倉末期~南北朝期の随筆家。
- 作品:『徒然草』。さまざまな逸話や人生訓を収録した随筆文学。
- 仁和寺:京都市右京区にある寺。法師(僧侶)が多く住む。
- 石清水八幡宮:京都府八幡市にある名社。山上に本宮がある。
重要古語・語句:
- 年ごろ:長年。
- 見ばや:見たい。
- 詣づ:参拝する。
- 拝みて:手を合わせて祈る。
- いとおろかなり:とても愚かだ。
【設問】
【問1】仁和寺の法師が都の名所を訪ね歩いた動機として本文内容に最もふさわしいものを一つ選べ。
- 都の名所をすべて見てみたいと思ったから
- 参拝のために命じられたから
- 修行のために山にこもるため
- 友人に会うため
- 買い物をするため
【問1 正解と解説】
正解:1
「都の名所を尽くして見ばやと思ひけり」と本文にある。
【問2】法師が石清水八幡宮でとった行動について、本文内容と合致するものを一つ選べ。
- 本宮の前まで行かず、麓から拝んで帰ってしまった
- 本宮の前で祈り、社殿の奥まで進んだ
- 祭りに参加した
- 宝物館を見学した
- 村人と一緒に参拝した
【問2 正解と解説】
正解:1
「本宮の御前まで詣でず、ただ麓より拝みて帰りける」と明記されている。
【問3】法師が麓の茶屋で「石清水は、いづくにか侍る」と問うたときの様子として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 自分が本宮まで行かなかったことに気づいていなかった
- 本宮を拝んで満足していた
- 参道を迷っていた
- 祭りの情報を聞いていた
- 村人に案内を頼んだ
【問3 正解と解説】
正解:1
「いま拝みて下り給へるは、その石清水にて候ふ」と答えられ、本人は本宮まで行かなかったことに気づいていなかった。
【問4】この話から学べる人生訓・教訓として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 物事の本質を自分の目で確かめることが大切である
- 旅はなるべく早く済ませるべきである
- 友人と一緒に行動すべきである
- 名所を訪ね歩くのは無駄である
- 一度に多くの場所を訪ねると疲れる
【問4 正解と解説】
正解:1
本宮まで行かずに満足した愚かさから、「自分で本質を確かめる」ことの大切さが説かれている。