漢文対策問題 049(故事成語『蛍雪の功』)
本文
晋車胤、恭勤不倦、博学多通。家貧、不常得油。夏月、則練囊盛数十蛍火、以照書、以夜継日焉。…孫氏世録曰、「孫康家貧、常映雪読書。」
【書き下し文】
晋(しん)の車胤(しゃいん)は、恭勤(きょうきん)にして倦(う)まず、博学(はくがく)にして多く通ず。家貧(まず)しくして、常に油を得ず。夏月(かげつ)には、則(すなは)ち練囊(れんのう)に数十(すうじゅう)の蛍火(けいか)を盛(も)り、以て書を照らし、夜を以て日に継(つ)ぐ。…孫氏(そんし)の世録(せいろく)に曰く、「孫康(そんこう)は家貧しく、常に雪に映(えい)じて書を読む。」と。
【現代語訳】
晋の時代の車胤は、謹み深く勉学に励んで怠ることがなく、博学で多くの物事に通じていた。家は貧しく、いつも灯火用の油が手に入るわけではなかった。そこで夏になると、薄絹の袋に数十匹の蛍を入れ、その光で書物を照らし、夜も昼に続けて勉強した。…『孫氏世録』という書物には、次のように書かれている。「孫康は家が貧しく、いつも冬の夜には雪の明かりに照らして書物を読んでいた。」と。
【設問】
問1 傍線部「夜を以て日に継ぐ」とは、どのような様子を表しているか。最も適当なものを選べ。
- 夜の闇が、まるで昼間のように明るくなる様子。
- 夜通し勉強し、そのまま昼間の活動へと続ける様子。
- 夜の間に読んだ内容を、昼間にもう一度復習する様子。
- 夜も昼も区別がつかなくなるほど、勉強に没頭している様子。
- 夜は蛍の光で、昼は太陽の光で勉強を続ける様子。
問2 この「車胤」と「孫康」の二人の逸話が、後世に伝えようとしているメッセージとして、最も適当なものは何か。
- どんなに貧しい境遇にあっても、工夫と努力次第で学問を続けることはできるということ。
- 夏は蛍の光で、冬は雪の明かりで勉強するのが、最も効率的な学習法であるということ。
- 貧しい家に生まれた者は、学問によって身を立てるしか成功の道はないということ。
- 若い頃の苦労は、買ってでもすべきであるという、苦労そのものの尊さ。
- 学問とは、本来、自然の光の下で行うのが最も良いということ。
【正解と解説】
問1:正解 2
- 選択肢1:蛍の光はそれほど明るくなく、比喩的な意味合いである。
- 選択肢2:◎ 「夜を昼に継ぐ」と読むこの句は、「夜の活動(勉強)を、そのまま昼の活動へと続けていく」という意味の慣用句。夜も寝ずに勉強に励む勤勉な様子を表している。
- 選択肢3:復習するという意味ではない。
- 選択肢4:区別がつかなくなるほど没頭しているというニュアンスも含まれるが、時間的な継続性を表す2の方がより直接的な意味である。
- 選択肢5:夜と昼の光について述べてはいるが、「継ぐ」という言葉の「継続性」を捉えられていない。
問2:正解 1
- 選択肢1:◎ 車胤は「油がない」という貧しさゆえの障害を「蛍の光」という工夫で乗り越え、孫康は同じく「雪明り」という工夫で乗り越えている。この二人の逸話は、逆境に屈せず、知恵と努力で学び続けることの尊さを後世に伝えるためのものである。
- 選択肢2:効率的な学習法ではなく、あくまで逆境を乗り越える工夫の例である。
- 選択肢3:学問しか道がない、というような限定的な話ではない。
- 選択肢4:苦労そのものを目的とするのではなく、あくまで「学ぶ」という目的のための苦労である。
- 選択肢5:自然光が良いという話ではなく、灯火用の油が買えないという状況が前提にある。
【覚えておきたい知識】
重要句法:「Aを以てBす」
- 意味:「Aを手段・方法としてBをする」。
- 本文の例①:「以て書を照らし」→ (蛍火)を以て書を照らし→蛍火で書物を照らし。
- 本文の例②:「夜を以て日に継ぐ」→ 夜を以て日に継ぎ→夜を昼に続けて(勉強する)。
- 漢文において最も基本的な句法の一つ。何が手段で、何が行動かを正確に捉えることが重要。
重要単語
- 車胤(しゃいん)・孫康(そんこう):共に晋の時代の人。苦学力行の末、高級官僚になったと伝えられる。
- 恭勤(きょうきん)にして倦(う)まず:謙虚で勤勉であり、飽きることがない。
- 練囊(れんのう):薄い絹でできた袋。
- 蛍火(けいか):蛍の光。
- 日に継(つ)ぐ:昼間にまで活動を続ける。
- 映(えい)ず:光が反射して照らす。
背景知識・故事成語:「蛍雪の功(けいせつのこう)」
出典は『晋書』車胤伝など。この車胤と孫康の二人の物語が元になり、「蛍雪」という言葉が生まれた。「蛍」は車胤が蛍の光で勉強したこと、「雪」は孫康が雪明りで勉強したことを指す。このことから、「蛍雪の功」とは、「貧しさなどの困難な状況に耐え、苦労して学問に励んだ、その努力の成果」という意味で使われる。逆境にも負けずに学び続ける勤勉努力の象徴として、広く知られている故事成語である。