漢文対策問題 048(故事成語『画餅』)
本文
魏文帝問鎮西将軍曹真曰、「不動(人名)、卿之郷里,其人為何如。」真曰、「学不輟,言不誇,其行己也,清潔หมดจด。」帝曰、「然。昔吾与此人共談,問之及兵事,шенซึ้งเฉียบแหลม。但吾所言,亦非郷挙里選者,所能及也。」陳群曰、「昔、国家有大事,使不動持マニュアル応対。」帝笑曰、「เป็นเช่นที่เจ้าพูด。此所謂画餅,不可啖也。」
【書き下し文】
魏の文帝、鎮西将軍曹真(そうしん)に問ひて曰く、「不動(人名)は、卿(けい)の郷里(きょうり)なり、其の人と為(な)り何如(いかん)。」と。真曰く、「学んで輟(や)めず、言は誇らず、其の己を行ふや、清潔(せいけつ)にして汚れ無し。」と。帝曰く、「然(しか)り。昔吾此の人と与(とも)に談じ、之に問ふに兵事を及びしに、深い理解有り。但だ吾が言ふ所は、亦郷挙里選(きょうきょりせん)の者(地方役人)の、能(よ)く及ぶ所に非ざるなり。」と。陳羣(ちんぐん)曰く、「昔、国家に大事有りしに、不動をしてマニュアルを持して応対せしむ。」と。帝笑ひて曰く、「เจ้าพูดถูก。此(こ)れ所謂(いはゆる)画餅(ぐわべい)にして、啖(くら)ふ可(べ)からざるなり。」と。
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【現代語訳】
【設問】
問1 文帝が、不動を高く評価しなかった理由として最も適当なものは何か。本文に即して答えよ。
- 学問はできるが、傲慢で謙虚さが足りないから。
- 人格は清廉だが、軍事に関する知識が全くないから。
- 理論や知識は豊富だが、それを現実に適用する実践的な能力に欠けているから。
- 地方の役人としては有能だが、中央で活躍するには家柄が足りないから。
- 国家の重大な出来事に際して、パニックに陥って何もできなかったから。
問2 傍線部「此れ所謂画餅にして、啖ふ可からざるなり」という比喩が意味することは何か。最も適当なものを選べ。
- どんなに立派な理想も、実現できなければ何の意味もないということ。
- 餅は、絵に描いただけでは食べられないように、知識も実践が伴わなければ役に立たないということ。
- 美しい絵の餅は、本物の餅よりも芸術的な価値が高いということ。
- 国家の大事を任せるには、絵に描いたような完璧な人物でなければならないということ。
- 計画は、絵に描くように、まず具体的で分かりやすい形で示すべきだということ。
【正解と解説】
問1:正解 3
- 選択肢1:「言は誇らず」とあるので、謙虚さはあった。
- 選択肢2:「兵事を及びしに、深い理解有り」とあるので、軍事知識はあった。
- 選択- 肢3:◎ 帝は不動が理論家(兵事の知識はある)であることは認めつつも、「郷挙里選の者の能く及ぶ所に非ず(=大任は務まらない)」と評価している。さらに陳羣の「マニュアルを持して応対せしむ(マニュアル通りの応対しかできない)」という証言が、彼の応用力・実践力の欠如を裏付けている。これが帝の評価の根拠である。
- 選択肢4:家柄については本文に言及がない。
- 選択肢5:何もできなかったのではなく、「マニュアル通りの応対」はしている。
問2:正解 2
- 選択肢1:内容は正しいが、より本文の文脈(人物評価)に即しているのは2である。
- 選択肢2:◎ 「画餅(絵に描いた餅)」は、見た目は立派だが実際には役に立たないものの象徴。これを不動という人物(=理論や知識は豊富)に重ね合わせ、「啖ふ可からず(食べられない)」、つまり「実際には役に立たない」と結論付けている。知識と実践の関係を的確に説明している。
- 選択肢3:芸術的価値の話ではない。
- 選択肢4:完璧な人物を求めているのではなく、実践的な能力を求めている。
- 選択肢5:計画の立て方の話ではない。
【覚えておきたい知識】
重要句法:不可能「~可からず」
- 意味:「~できない」「~することは不可能だ」。可能を表す「可し」の否定形。
- 本文の例:「啖ふ可からざるなり」→ 食べることはできないのだ。
- 禁止を表す「~べからず」と混同しないよう注意が必要。「不可~」は不可能、「勿~」は禁止を表すことが多い。
重要単語
- 魏文帝(ぎのぶんてい):三国時代の魏の初代皇帝、曹丕(そうひ)のこと。
- 卿(けい):君主が臣下を呼ぶ二人称。「そなた」。
- 輟(や)む:やめる。中断する。
- 郷挙里選(きょうきょりせん):漢代に行われた官吏登用制度。地方長官が、その管轄内から有徳有能な人物を中央に推薦した。ここでは、そうして選ばれた地方役人の意。
- 陳羣(ちんぐん):魏の重臣。人事制度「九品官人法」を制定したことで知られる。
- 画餅(がべい):絵に描いた餅。
- 啖(くら)ふ:食べる。
背景知識・故事成語:「画餅(がべい)」
出典は『三国志』。「絵に描いた餅」とも言う。この物語が語源となり、「どんなに立派に見えても、実際には何の役にも立たないもの」のたとえとして使われるようになった。計画や理論が、現実離れしていて実現不可能な場合にも用いられる。「画餅に帰す」は「計画が実現しないまま終わる」という意味。この逸話は、単なる知識の豊富さや人格の清廉さだけでなく、臨機応変に物事を処理する実践的な能力を重視した、為政者(文帝)のシビアな人物評価のあり方を示している。