漢文対策問題 035(唐詩『静夜思』李白)
本文
床前看月光
疑是地上霜
挙頭望山月
低頭思故郷
【書き下し文】
床前(しょうぜん) 月光(げっこう)を看(み)る
疑(うたが)ふらくは是(こ)れ地上の霜かと
頭(かうべ)を挙(あ)げては山月(さんげつ)を望み
頭(かうべ)を低(た)れては故郷を思ふ
【現代語訳】
寝台の前に射し込む月の光を(寝ぼけ眼で)見る。
その光のあまりの白さに、これは地面に降りた霜ではないかと見間違えるほどだ。
(はっとして)頭を上げてみると、山の端に月がかかっているのが見え、
(その月を見て感傷にふけり)うなだれては、遠い故郷のことをしみじみと思うのであった。
その光のあまりの白さに、これは地面に降りた霜ではないかと見間違えるほどだ。
(はっとして)頭を上げてみると、山の端に月がかかっているのが見え、
(その月を見て感傷にふけり)うなだれては、遠い故郷のことをしみじみと思うのであった。
【設問】
問1 傍線部「疑ふらくは是れ地上の霜かと」という表現には、どのような情景が表れているか。最も適当なものを選べ。
- 実際に霜が降りるほど、秋の夜が冷え込んでいるという厳しい情景。
- 寝起きでぼんやりした意識の中、床に射し込む月光の白さを霜と見間違えた、静かで幻想的な情景。
- 故郷で見た冬の霜を思い出し、目の前の月光と重ね合わせているという、追憶の情景。
- あまりに月光が明るいため、地面の埃や塵が霜のように白く見えているという、現実的な情景。
- 月光と霜の区別がつかないほど、自分の視力が衰えてしまったという、作者の嘆きの情景。
問2 この詩全体を貫く、作者の最も中心的な感情は何か。最も適当なものを選べ。
- 秋の夜の月の美しさに心を奪われ、自然の雄大さを称える感動。
- 旅先の静かな夜、ふと見た月をきっかけにかき立てられた、故郷を恋しく思う気持ち。
- 眠れぬ夜に一人、自らの不遇な人生を思い返し、将来を憂う不安な気持ち。
- 霜が降りるほどの寒さの中で、誰もおらず、独りぼっちであることの寂しさと孤独感。
- 故郷に帰る決意を固め、再び家族に会える日を心待ちにする希望。
【正解と解説】
問1:正解 2
- 選択肢1:「疑ふらくは~かと」とあるため、実際に霜が降りているのではなく、あくまで作者の錯覚である。
- 選択肢2:◎ 「床前」や「疑ふ」という言葉から、作者が寝起きでまどろんでいる状態がうかがえる。その中で見た月光の白さを霜と見間違えるという、静かで澄んだ夜の幻想的な一瞬を的確に捉えている。
- 選択肢3:故郷の霜を思い出しているのではなく、目の前の光景を霜かと錯覚している。
- 選択肢4:埃や塵というような、殺風景な解釈は詩の美しさを損なう。
- 選択肢5:視力の衰えを嘆いている詩ではない。
問2:正解 2
- 選択肢1:月の美しさは詩の重要な要素だが、それはあくまで最終句「故郷を思ふ」を導き出すためのきっかけに過ぎない。
- 選択肢2:◎ 静かな夜の光景(情景)から始まり、月を見ることで、最終的に故郷への思い(感情)に行き着く、という構成になっている。この「望郷の念」こそが、この詩の主題である。
- 選択肢3:不遇な人生を嘆くというような、個人的な苦悩はうたわれていない。
- 選択肢4:孤独感もあるかもしれないが、その寂しさの根源は「故郷から遠く離れていること」にあり、より中心的な感情は望郷の念である。
- 選択肢5:決意や希望というよりは、静かな夜にふと湧き上がった、しみじみとした懐かしさや恋しさという、より静的な感情がうたわれている。
【覚えておきたい知識】
詩の技法:対句(ついく)
- 漢詩、特に近体詩で頻繁に用いられる表現技法。意味や文法構造が対応する二つの句を並べることで、リズムを生み出し、内容を鮮やかに対比・強調する効果がある。
- 本文の例:
「頭を挙げては山月を望み」
「頭を低れては故郷を思ふ」
「挙頭(上を向く)」と「低頭(下を向く)」、「望山月(外の景色を見る)」と「思故郷(内の心を見る)」という対照的な動作と言葉が、作者の心の動きを見事に表現している。
重要単語
- 床(しょう):寝台。ベッド。
- 疑(うたが)ふらくは~かと:「~ではないかと思う」。確信のない推量を表す。
- 霜(しも):しも。
- 挙(あ)ぐ:持ち上げる。
- 望(のぞ)む:遠くを眺める。
- 低(た)る:頭などを低く垂れる。うなだれる。
- 故郷(こきょう):ふるさと。
背景知識:作者・李白(りはく)
李白は、杜甫と並び称される、唐の時代を代表する大詩人。「詩仙(しせん)」とも呼ばれる。その生涯は伝説に彩られ、自由奔放でスケールの大きな詩を数多く残した。この「静夜思(せいやし)」は、李白の作品の中でも、そして全ての漢詩の中でも最も有名な作品の一つ。わずか二十文字の中に、旅先の静寂、月の光の美しさ、そして万人に共通する故郷への思いを見事に凝縮しており、中国では子供が最初に覚える詩として親しまれている。