漢文対策問題 034(『韓非子』より 信賞必罰)
本文
故明主之治国也、明賞、則民勧功。厳刑、則民知所畏。…故有功者必賞、則爵禄厚而愈勧。有罪者必誅、則刑罰重而愈禁。…是以爵禄雖厚、不以与無功。刑罰雖重、不以加無罪。
【書き下し文】
故(ゆゑ)に明主(めいしゅ)の国を治むるや、賞を明らかにすれば、則(すなは)ち民(たみ)は功(こう)を勧(すす)む。刑を厳(げん)にすれば、則ち民は畏(おそ)るる所を知る。…故に功有る者は必ず賞し、則ち爵禄(しゃくろく)厚くして愈(いよいよ)勧む。罪有る者は必ず誅(ちゅう)し、則ち刑罰(けいばつ)重くして愈禁(いよいよきん)ず。…是(こ)こを以(もっ)て爵禄厚しと雖(いへど)も、以て無功(むこう)に与へず。刑罰重しと雖も、以て無罪(むざい)に加へず。
【現代語訳】
【設問】
問1 筆者が考える、君主が人民を治めるための最も効果的な二つの手段は何か。本文から抜き出して組み合わせたものとして、最も適当なものを選べ。
- 爵禄と刑罰
- 明賞と厳刑
- 功と罪
- 勧功と畏怖
- 厚賞と重罰
問2 本文で述べられている、賢明な君主が行う賞罰のあり方についての説明として、最も適当なものを選べ。
- 功績や罪の有無にかかわらず、全ての人民に平等に賞罰を与えるべきである。
- 賞罰の基準を明確かつ公平に運用し、功績のある者には必ず賞を、罪のある者には必ず罰を与えるべきである。
- 人民を励ますためには賞を厚くし、人民を恐れさせるためには罰を軽く調整するべきである。
- 君主の個人的な感情を優先し、気に入った者には賞を与え、気に入らない者は罰するべきである。
- 賞罰はあくまで最終手段であり、基本的には人民の自主的な善意に任せるべきである。
【正解と解説】
問1:正解 2
- 選択肢1:「爵禄」は賞の内容、「刑罰」は罰の内容であり、手段そのものを指す言葉ではない。
- 選択肢2:◎ 「賞を明らかにすれば、則ち民は功を勧む。刑を厳にすれば、則ち民は畏るる所を知る」とあり、この「明賞(明確な恩賞)」と「厳刑(厳格な刑罰)」が、人民を動かす二本の柱として明確に述べられている。
- 選択肢3:「功」と「罪」は賞罰の対象となる行為であり、手段ではない。
- 選択肢4:「勧功」と「畏怖」は、明賞と厳刑によってもたらされる「結果」である。
- 選択肢5:「厚賞」と「重罰」は賞罰の程度を示しており、その根本にある「明確さ」「厳格さ」を述べた2の方がより本質的である。
問2:正解 2
- 選択肢1:平等ではなく、功罪に応じて明確に区別して与えるべきだと述べている。
- 選択肢2:◎ 「功有る者は必ず賞し」「罪有る者は必ず誅す」「無功に与へず」「無罪に加へず」という記述から、賞罰の基準が明確(明)で、厳格(厳)に、そして公平に適用されるべきだという筆者の主張が読み取れる。これが「信賞必罰」の考え方である。
- 選択肢3:罰を軽くするとは述べておらず、むしろ「刑罰重くして愈禁ず」とある。
- 選択肢4:個人的な感情を排除し、功罪という客観的な基準で判断すべきだと説いており、真逆である。
- 選択肢5:人民の自主性に任せるのではなく、賞罰という明確なアメとムチでコントロールすべきだという考え方である。
【覚えておきたい知識】
重要句法:「Aば、則ちB」
- 意味:「もしAならば、B」「Aすると、その結果B」。原因・結果、条件・帰結の関係を示す順接の構文。
- 本文の例:「賞を明らかにすれば、則ち民は功を勧む」→ 賞を明確にすれば、(その結果として)人民は功績を立てようと励む。
- この句法は、論理的な関係を示すため、論説文で非常に多く用いられる。
重要単語
- 明主(めいしゅ):賢明な君主。物事の道理に明るい君主。
- 勧(すす)む:努力する。励む。
- 畏(おそ)る:恐れる。敬いかしこまる。
- 爵禄(しゃくろく):「爵」は位、身分。「禄」は給料、ほうび。地位と俸給のこと。
- 誅(ちゅう)す:罪を責めて殺す。処罰する。
- 禁(きん)ず:禁止される。悪事をやめる。
背景知識・思想:「信賞必罰(しんしょうひっぱつ)」
出典は、法家思想の集大成である『韓非子』。法家は、儒家のように君主の徳や人民の善性に頼るのではなく、明確に定められた「法」によって国家を統治すべきだと考えた。その法を機能させるための二大原則が「賞」と「罰」である。「信賞必罰」とは、賞を与えるべき功績があれば必ず賞し、罰すべき罪があれば必ず罰するという、賞罰の厳格で公平な運用を意味する。これにより、人民は何をすれば得をし、何をすれば損をするかが明確になり、国家の思う通りに行動するようになると考えた。君主の個人的な感情や温情を排し、システムとして国を治めようとする、法家思想のドライな人間観が表れている。