漢文対策問題 031(『荀子』より 学問の重要性)
本文
君子曰、「学不可以已。」青、取之於藍、而青於藍。氷、水為之、而寒於水。木直中縄、輮以為輪、其曲中規。雖有槁暴、不復挺者、輮使之然也。故木受縄則直、金就礪則利。君子博学而日参省乎己、則知明而行無過矣。
【書き下し文】
君子(くんし)曰く、「学は以(もっ)て已(や)む可(べ)からず。」と。青は、之を藍(あい)より取りて、藍より青し。氷は、水之を為(な)して、水より寒し。木(き)の直(なほ)きこと縄(なわ)に中(あた)るも、輮(た)めて以て輪と為(な)せば、其の曲がれること規(き)に中る。槁暴(かうばく)すること有りと雖(いへど)も、復(ま)た挺(てい)せざる者は、輮むること之をして然(しか)らしむるなり。故に木は縄を受くれば則ち直く、金(かね)は礪(れい)に就(つ)けば則ち利(り)あり。君子は博(ひろ)く学びて日に己(おのれ)を参省(さんせい)すれば、則ち知明らかに、行ひに過(あやま)ち無し。
【現代語訳】
【設問】
問1 傍線部「青は、之を藍より取りて、藍より青し」という比喩が示していることは何か。最も適当なものを選べ。
- 何事も、加工することで元の素材より価値が下がるということ。
- 弟子が努力を重ねることによって、師匠を超えるほどの優れた人物になれるということ。
- 青色と藍色は、見た目は似ているが本質的には全く異なるということ。
- 努力しても、元々の才能や素材の限界を超えることはできないということ。
- 自然のままの状態が最も美しく、尊いものであるということ。
問2 筆者が様々な比喩を通して、最終的に君子のあるべき姿として主張していることは何か。最も適当なものを選べ。
- 人間は生まれつき善い性質を持っているので、何もしなくてもいずれ立派な人物になれるということ。
- 人間は学問や自己反省といった後天的な努力を続けることによって、初めて知恵が明らかになり、過ちのない立派な人物になれるということ。
- 優れた師匠に巡り会い、その教えを忠実に守ることだけが、立派な人物になるための唯一の方法であるということ。
- 知識を蓄えることよりも、まず行動を起こし、失敗から学ぶことの方が重要であるということ。
- 学問とは本来、人間が生まれながらに持っている徳を、再確認するための手段にすぎないということ。
【正解と解説】
問1:正解 2
- 選択肢1:× 「青し」とあるように、価値が上がっている。
- 選択肢2:◎ 「藍(=師、元のもの)」から「青(=弟子、加工後のもの)」が生まれ、さらにそれが元を超えていく。これは、努力や学習によって、元の状態よりも優れた状態に到達できることを示している。このことから「出藍の誉れ」という言葉が生まれた。
- 選択肢3:本質的に異なるのではなく、元は同じものである。
- 選択肢4:限界を超える「可能性」を示しているため、真逆である。
- 選択肢5:加工することの重要性を説いており、自然のままを肯定しているわけではない。
問2:正解 2
- 選択肢1:これは孟子の性善説の考え方であり、筆者(荀子)の考え方とは逆である。
- 選択肢2:◎ 藍、水、木、金属といった素材(=人間の素質)が、染色、冷却、加工、研磨といった後天的なプロセス(=学問、修養)を経て、より優れたものになるという比喩の連続は、まさに人間の成長も同様であるという主張につながる。最後の「君子は博く学びて~」がその結論である。
- 選択肢3:「師匠につく」ことだけでなく、「日に己を参省す」という自己反省の重要性も説いている。
- 選択肢4:行動よりまず「学ぶ」ことの重要性を説いている。
- 選択肢5:再確認ではなく、元々の性質を「矯正し、向上させる」ための手段として学問を捉えている。
【覚えておきたい知識】
重要句法:比較形「A於B」
- 意味:「BよりA」。比較の対象を示す前置詞「於」が、「~より」と読まれる。英語の "than" に相当する。
- 本文の例:「青於藍(藍より青し)」「寒於水(水より寒し)」
- この句法は、物事の優劣や程度の違いを明確にするために使われる。
重要単語
- 已(や)む:やめる。中止する。
- 藍(あい):青色の染料の原料となる植物。
- 輮(た)む:熱を加えて木材を曲げること。
- 規(き):円を描くためのコンパス。転じて、基準、法則。
- 槁暴(かうばく):日にさらされて干からびること。
- 挺(てい)す:まっすぐになる。
- 礪(れい):砥石(といし)。
- 参省(さんせい)す:「参」は何度も、「省」は省みる・反省するの意。日に何度も我が身を振り返って反省すること。
背景知識・思想:「性悪説(せいがくせつ)」と「出藍の誉れ」
出典は『荀子(じゅんし)』勧学篇。儒家でありながら、人間の本性を悪(=欲望に流されやすい弱いもの)と捉える「性悪説」を唱えた荀子は、だからこそ後天的な「学問」が重要だと説いた。人間は、礼儀や師の教えといった外的規範(=木にとっての墨縄、金属にとっての砥石)によって矯正され、努力を続けることで、初めて善なる君子になれると考えた。本文の「青は藍より出でて藍より青し」は、後に「出藍の誉れ(しゅつらんのほまれ)」という故事成語の元となり、弟子が師匠を超えるほどに成長することを意味するようになった。