漢文対策問題 002(故事成語『水魚の交わり』)
本文
於是与亮情好日密。関羽・張飛等不悦。先主解之曰、「孤之有孔明、猶魚之有水也。願諸君勿復言。」関羽・張飛乃止。
【書き下し文】
是(ここ)に於(お)いて亮(りょう)との情好(じょうこう)日に日に密なり。関羽(かんう)・張飛(ちょうひ)等(ら)悦(よろこ)ばず。先主(せんしゅ)之(これ)を解きて曰く、「孤(こ)の孔明(こうめい)有(あ)るは、猶(な)ほ魚の水有るがごときなり。願はくは諸君(しょくん)復(ま)た言ふこと勿(な)かれ。」と。関羽・張飛乃(すなは)ち止(や)む。
(注)先主:劉備のこと。 孔明:諸葛亮のこと。
【現代語訳】
こうして(劉備は)諸葛亮との親密な交わりが日ごとに深まっていった。関羽や張飛らはこれを快く思わなかった。主君である劉備は彼らに事情を説明して言った、「私が孔明を得たことは、ちょうど魚が水を得たようなものなのだ。どうか、君たちは二度と不満を言わないでくれ。」と。これを聞いて関羽と張飛は(不満を言うのを)やめた。
【問題】
「関羽・張飛等不悦」とあるが、彼らが不満に思った直接の理由と、それに対する劉備の説得の要点を組み合わせたものとして、最も適当なものを次の中から一つ選べ。
- 【理由】劉備が新参者の諸葛亮ばかりを重用するため。【説得の要点】諸葛亮は魚であり、自分(劉備)は水だから、二人を切り離さないでほしいと頼んだ。
- 【理由】諸葛亮が自分たちを見下していると感じたため。【説得の要点】諸葛亮は自分にとって水のような存在なので、尊重してほしいと諭した。
- 【理由】劉備が日に日に諸葛亮と親密になっていくため。【説得の要点】諸葛亮を得た自分は、まるで魚が水を得たようなものだと、その不可欠性をたとえで示した。
- 【理由】諸葛亮の立てた作戦が危険すぎると考えたため。【説得の要点】今はただ自分の言葉を信じて、二度と不満を言わないようにと厳命した。
- 【理由】劉備と自分たちの関係が疎遠になったと感じたため。【説得の要点】諸君らも魚であり、諸葛亮も魚なので、同じ水の中で仲良くしてほしいと述べた。
- 【理由】劉備が諸葛亮の言いなりになっているように見えたため。【説得の要点】諸葛亮は自分にとって空気のような存在なのだと、その重要性を説明した。
- 【理由】義兄弟である自分たちより、諸葛亮を優先していると感じたため。【説得の要点】諸葛亮がいなければ漢王朝の復興は不可能だと、現実的な利害を説いた。
- 【理由】諸葛亮の存在が、自分たちの活躍の場を奪うと考えたため。【説得の要点】魚に水が必要なように、自分にも諸君らが必要なのだと、改めて彼らの重要性を説いた。
- 【理由】劉備と諸葛亮の親密さが、軍の規律を乱すと懸念したため。【説得の要点】諸葛亮との関係は公的なものであり、私的な感情ではないと弁明した。
- 【理由】自分たちが長年仕えてきた功績が軽んじられていると感じたため。【説得の要点】これからは諸君の意見も聞くので、不満を言うのはやめてほしいと約束した。
【正解と解説】
正解:3
- 選択肢1:× たとえの「魚」と「水」の関係が逆になっている。「魚=劉備、水=諸葛亮」である。
- 選択肢2:× 諸葛亮が二人を見下したという記述はない。不満の原因はあくまで劉備との関係性にある。
- 選択肢3:◎ 本文「情好日に日に密なり」が不満の理由、「孤の孔明有るは、猶ほ魚の水有るがごときなり」が説得の要点であり、内容が完全に合致する。
- 選択肢4:× 作戦への不満という記述はなく、また劉備は厳命ではなく、たとえ話で穏やかに諭している。
- 選択肢5:× 全員を魚にたとえてはいない。
- 選択肢6:× たとえが「空気」ではなく「水」である。
- 選択肢7:× 義兄弟という関係性は背景にあるが、本文から読み取れる直接の説得内容は「たとえ話」である。
- 選択肢8:× 劉備が説得の際に、関羽たちの重要性に言及した記述はない。
- 選択肢9:× 軍の規律を懸念したという記述はない。
- 選択肢10:× 劉備が「これからは意見を聞く」と約束した記述はない。
【覚えておきたい知識】
重要句法:比況(ひきょう)「猶ホ~ノごとし」
- 意味:「ちょうど~のようだ」「あたかも~と同じだ」と、ある物事を別の物事にたとえる表現。英語の "be like ~" や "as if ~" にあたる。
- 本文の例:「孤之有孔明、猶魚之有水也(孤の孔明有るは、猶ほ魚の水有るがごときなり)」→ 私が孔明を得たことは、ちょうど魚が水を得たようなものだ。
- 「Aは猶ほBのごとし」の形で、AとBがどのような関係でたとえられているかを読み解くことが、文意を正確に捉える上で極めて重要。
重要単語
- 孤(こ):君主や王侯が自分を指して言う一人称。「私」「わたくし」の謙譲語。徳が足りない未熟者である、というニュアンスが含まれる。
- 情好(じょうこう):親しい交わりや、心のこもった親密な関係。
- 解(と)く:ここでは、誤解や不満を解きほぐし、説明して納得させるという意味。
- 勿(な)かれ:「~するな」という禁止を表す。強い禁止や、相手への願いとして使われる。「無かれ」と書くこともある。
背景知識・故事成語:「水魚の交わり(すいぎょのまじわり)」
本文が語源となった故事成語。魚が水なしでは生きられないように、切り離すことのできない、非常に親密な間柄をたとえる。特に、君主と臣下の親密な関係を指すことが多い。この故事の背景には、劉備が諸葛亮を軍師として迎えるために、彼の庵を三度も訪ねたという「三顧の礼(さんこのれい)」の逸話もある。