漢文対策問題 001(故事成語『虎の威を借る狐』)
本文
虎求百獣而食之。得狐。狐曰、「子無敢食我也。天帝使我長百獣。今子食我、是逆天帝命也。子以我為不信、吾為子先行。子随我後観。百獣之見我、而敢不走乎。」虎以為然。故遂与之行。獣見之皆走。虎不知獣畏己而走也。以為畏狐也。
【書き下し文】
虎、百獣を求めて之を食らふ。狐を得たり。狐曰く、「子(し)、敢(あ)へて我を食らふこと無(な)かれ。天帝、我をして百獣に長たらしむ。今、子、我を食らはば、是(こ)れ天帝の命に逆らふなり。子、我を以(もっ)て信(しん)ならずと為(な)さば、吾(われ)、子の為に先行せん。子、我が後に随(したが)ひて観(み)よ。百獣の我を見て、敢へて走らざらんや、と。」虎、以て然(しか)りと為す。故(ゆえ)に遂(つい)に之(これ)と行く。獣、之を見て皆走る。虎、獣の己(おのれ)を畏(おそ)れて走るを知らざるなり。以て狐を畏るゝと為せり。
【現代語訳】
虎が多くの獣を捕らえては食べていた。ある時、一匹の狐を捕まえた。狐は言った、「あなたは決して私を食べてはなりません。天の帝は私を百獣の長に任命なさいました。もし今、あなたが私を食べれば、それは天帝の命令に背くことになります。もし私の言うことが信じられないのでしたら、私があなた様のために前を歩きましょう。あなたは私の後ろについてきてご覧なさい。獣たちが私を見て、逃げ出さないことがあるでしょうか、いや必ず逃げ出すはずです。」と。虎はこれをもっともだと思った。そこで、とうとう狐と一緒に行った。獣たちは(二人の姿)を見て皆逃げ出した。虎は、獣たちが自分自身を恐れて逃げているのだとは気づかなかった。(狐を)恐れているのだと思い込んだのであった。
【問題】
本文の内容に関する説明として、最も適当なものを次の中から一つ選べ。
- 狐は、天帝の使いである自分を食べれば虎のためにならないと説き、虎を心から心服させた。
- 虎は、狐が本当に百獣の長であるか疑っていたため、狐の後について歩き、その証拠を確かめようとした。
- 百獣が逃げ出したのは、狐が持つ不思議な力を恐れたからであり、虎はその様子を見て狐の言葉を信じた。
- 狐は、虎の権威を利用して百獣を従わせようとし、虎はその計略に気づかずに狐を恐れていると勘違いした。
- 虎は、自分と一緒に歩く狐の姿を見て百獣が逃げていく様子に感心し、狐を自分の家来にしようと考えた。
- 狐は、百獣の長となるよう天帝から命じられたと主張し、虎はその言葉を信じて狐を食べるのをやめた。
- 虎は、狐の知恵に感心し、百獣を支配するためのパートナーとして狐を認めることにした。
- 百獣は、狐と虎が一緒にいるのを見て驚き、両者を恐れて逃げ出したため、結果的に狐の嘘がばれてしまった。
- 狐は、虎に食べられそうになったため、機転を利かせて「自分は天帝の使いだ」という嘘をつき、難を逃れた。
- 虎は、狐の言葉を初めから信じておらず、百獣の反応を見ることで狐の嘘を見破ろうとしていた。
【正解と解説】
正解:9
- 選択肢1:× 虎は心から心服したのではなく、狐の言葉を「然り(もっともだ)」と判断しただけである。
- 選択肢2:× 疑っていた点は正しいが、「証拠を確かめようとした」のではなく、狐の提案に乗った形である。
- 選択肢3:× 百獣が逃げ出した本当の理由は「虎」を恐れたからであり、本文に「虎不知獣畏己而走也(虎、獣の己を畏れて走るを知らざるなり)」とある。
- 選択肢4:× 狐は百獣を「従わせよう」としたのではなく、虎から逃れるために「百獣が自分を恐れているように見せかけよう」とした。
- 選択肢5:× 虎が狐を家来にしようと考えたという記述はない。
- 選択肢6:× 虎が言葉を信じたのは事実だが、その後の「百獣が逃げる様子を見た」という行動の結果があっての最終的な判断である。
- 選択肢7:× パートナーとして認めたという記述はない。
- 選択肢8:× 狐の嘘は最後までばれていない。
- 選択肢9:◎ 虎に食べられそうになるという危機的状況で、「天帝」という虎より上位の存在を持ち出して嘘をつき、虎の威光を利用してその場を切り抜けた、という話の根幹を正しく説明している。
- 選択肢10:× 虎は「以為然(以て然りと為す)」とあり、狐の言葉を一旦もっともだと思っているため、初めから疑っていたわけではない。
【覚えておきたい知識】
重要句法:使役形「AをしてB(せ)しむ」
- 意味:「AにBさせる」という、誰かに何かをさせる意味を表す。英語の "make A do B" に近い。
- 本文の例:「天帝使我長百獣(天帝、我をして百獣に長たらしむ)」→ 天帝が、私(狐)を、百獣の長にさせる。
- この形を見たら、誰が誰に何をさせているのか、その関係を正確に読み取ることが重要。
重要単語
- 子(し):二人称。目上または同等の相手に使う「あなた」。
- 敢へて~(ず):「無理に~しようとする」「決して~しない」という強い意志を表す。ここでは「無かれ」という禁止の言葉と結びつき、「決して~してくれるな」となる。
- 以為(おもへらく)~と/以て~と為す:「~だと思う」「~とみなす」。虎の思考や判断を表す部分で使われている。
故事成語:「虎の威を借る狐(とらのいをかるきつね)」
力のない者が、力のある者の権勢をかさに着て威張ることのたとえ。この物語が語源となっている。