漢文対策問題 015(唐詩『春暁』孟浩然)
本文
春眠不覚暁
処処聞啼鳥
夜来風雨声
花落知多少
【書き下し文】
春眠(しゅんみん) 暁(あかつき)を覚えず
処処(しょしょ) 啼鳥(ていちょう)を聞く
夜来(やらい) 風雨(ふうう)の声(こえ)
花(はな)落つること 知んぬ多少(たしょう)ぞ
【現代語訳】
春の眠りは心地よく、夜が明けたのにも気づかなかった。
あちらこちらから、鳥のさえずる声が聞こえてくる。
そういえば、昨夜は風や雨の音がしていたなあ。
(あの風雨で)庭の花は、いったいどれほど散ってしまったことだろうか。
あちらこちらから、鳥のさえずる声が聞こえてくる。
そういえば、昨夜は風や雨の音がしていたなあ。
(あの風雨で)庭の花は、いったいどれほど散ってしまったことだろうか。
【問題】
この詩にうたわれている作者の心情の移り変わりとして、最も適当なものを次の中から一つ選べ。
- 春の眠りを妨げた鳥の声に苛立ち、さらに昨夜の嵐で花が散ったことに気づいて絶望している。
- 心地よい春の朝のまどろみから、鳥の声で穏やかに目覚め、ふと昨夜の風雨を思い出し、花を心配するほのかな感傷へと変化している。
- 鳥の鳴き声に春の訪れを実感し、昨夜の風雨が花を散らしたことを喜び、新しい季節の到来を祝っている。
- 昨夜の激しい風雨の音で眠れなかった作者が、朝になって鳥の声を聞き、ようやく静けさが戻ったことに安堵している。
- 春の朝の美しい情景を客観的に描写しており、作者個人の特別な感情は一切排除されている。
- 鳥の声を聞いて、昨夜の風雨で巣から落ちた雛鳥がいないか心配している。
- 花が散ってしまったことを深く悲しみ、春という季節の無常さとはかなさを嘆き、涙している。
- 春の眠りの心地よさと、鳥の声の美しさを対比させ、自然の素晴らしさを力強くうたいあげている。
- 昨夜の風雨で花が全て散ってしまったと確信し、その変わり果てた庭の光景を想像して愕然としている。
- 鳥の声で目が覚めたものの、まだ眠たくて布団から出られない、朝の気だるい気持ちをうたっている。
【正解と解説】
正解:2
- 選択肢1:苛立ちや絶望といった激しい感情は、この詩の穏やかな調子とは合わない。
- 選択肢2:◎ 「春眠暁を覚えず」の心地よさから、「啼鳥を聞く」という聴覚による目覚め、そして「夜来風雨の声」という記憶の想起、最後に「花落つること知んぬ多少ぞ」という花への優しい気遣いとほのかな寂しさ。この自然な心の動きを最も的確に捉えている。
- 選択肢3:花が散ることを喜ぶという解釈は不自然である。
- 選択肢4:眠れなかったという記述はなく、「暁を覚えず」とあるので、むしろよく眠っていたことがわかる。
- 選択肢5:最後の句に作者の心配や感傷が明確に表れており、客観的なだけではない。
- 選択肢6:心配の対象は「花」であり、雛鳥ではない。
- 選択肢7:涙するほどの深い悲しみではなく、「多少ぞ(どれくらいだろうか)」という問いかけに表れているように、もっと穏やかで余韻のある感傷である。
- 選択肢8:対比ではなく、心地よい朝の情景から記憶が呼び起こされるという、時間の流れに沿った構成になっている。
- 選択肢9:「確信」や「愕然」といった強い断定的な感情ではなく、あくまで「どれくらいだろう」という推測にとどまっている。
- 選択肢10:気だるさというよりは、目覚めの心地よさと、そこから生まれる物思いが主題である。
【覚えておきたい知識】
詩の形式:五言絶句(ごごんぜっく)
- この詩は、唐の時代に完成した漢詩の形式「近体詩」の一つである「絶句」にあたる。
- 構成:一句が五文字で、四句から成る。起承転結の構成を持つのが一般的。
- 起句(第一句):うたい起こし。「春眠暁を覚えず」
- 承句(第二句):起句を受けて展開。「処処啼鳥を聞く」
- 転句(第三句):場面や視点を転じる。「夜来風雨の声」
- 結句(第四句):全体を結び、主題や余韻を示す。「花落つること知んぬ多少ぞ」
- 押韻(おういん):偶数句の末尾の文字で韻を踏むのが基本。この詩では「暁(ぎょう)」「鳥(ちょう)」「少(しょう)」が韻を踏んでいる(※当時の中国語の発音による)。
重要単語
- 暁(あかつき):夜明け。明け方。
- 処処(しょしょ):あちらこちら。いたるところ。
- 啼鳥(ていちょう):さえずる鳥。「啼」は必ずしも「泣く」という意味ではなく、鳥や獣が「鳴く」こと全般を指す。
- 夜来(やらい):昨夜。昨夜から今朝にかけて。
- 多少(たしょう):どれほど。どのくらい。量を問う疑問詞。
背景知識:作者・孟浩然(もうこうねん)
孟浩然は、唐の時代を代表する詩人の一人。特に、故郷や自然の風景をうたった「自然詩人」として知られる。科挙(官僚登用試験)には及第せず、生涯の多くを在野の詩人として過ごした。その詩風は、平易な言葉を用いながら、情景を鮮やかに描き出し、穏やかでしみじみとした情感を表現するのが特徴。この「春暁」は、彼の代表作であると同時に、漢詩の中でも特に有名な作品の一つであり、多くの人々に愛唱されている。