漢文対策問題 013(『論語』より 益者三友・損者三友)
本文
子曰、「益者三友、損者三友。友直、友諒、友多聞、益矣。友便辟、友善柔、友便佞、損矣。」
【書き下し文】
子(し)曰(いわ)く、「益者(えきしゃ)は三友(さんゆう)、損者(そんじゃ)は三友。直(ちょく)を友とし、諒(りょう)を友とし、多聞(たぶん)を友とするは、益なり。便辟(べんぺき)を友とし、善柔(ぜんじゅう)を友とし、便佞(べんねい)を友とするは、損なり。」と。
【現代語訳】
先生(孔子)が言われた、「付き合って益となる友には三つのタイプがあり、付き合って損となる友にも三つのタイプがある。正直な人を友とし、誠実な人を友とし、博識な人を友とするのは、有益である。一方、体裁ばかり繕う人を友とし、面と向かっては媚びへつらう人を友とし、口先ばかりが達者な人を友とするのは、有害である。」と。
【問題】
孔子がここで説く「益者三友(付き合ってためになる友人)」に当てはまる人物像として、最も適当なものを次の中から一つ選べ。
- いつでも自分の意見に賛成し、決して反対しない友人。
- 自分の知らないことをたくさん知っており、様々な知識を教えてくれる友人。
- 口がうまく、その場をいつも楽しい雰囲気にしてくれる友人。
- 自分の機嫌を常にうかがい、顔色に合わせて態度を変える友人。
- 家柄が良く、社会的地位の高い友人。
- 自分のためを思い、時には耳の痛い忠告もしてくれる正直な友人。
- いつも笑顔を絶やさず、決して怒ったりしない穏やかな友人。
- 金払いが良く、たびたび食事などをご馳走してくれる友人。
- こちらの心中を察して、何も言わなくても理解してくれる友人。
- 約束は必ず守り、裏表のない誠実な友人。
【正解と解説】
正解:6
- 選択肢1:反対しないのは「善柔」という損な友人の特徴にあたる。
- 選択肢2:これは「多聞」を友とすることであり、益者三友の一つ。正解の候補だが、6と10も益者三友である。この設問では最も適当なものを選ぶ必要があるため、他の選択肢も吟味する。
- 選択肢3:口がうまいのは「便佞」という損な友人の特徴にあたる。
- 選択肢4:顔色をうかがうのは「便辟」という損な友人の特徴にあたる。
- 選択肢5:家柄や地位については本文で一切言及されていない。
- 選択肢6:◎ 「直を友とす」の「直」は、正直で率直なこと。自分のためを思って厳しいことも言ってくれる友人を指しており、本文の内容と完全に合致する。
- 選択肢7:単に穏やかであることは、必ずしも益となるとは限らない。「善柔」のように、面従腹背の可能性もある。
- 選択肢8:金銭的な利益については本文で一切言及されていない。
- 選択肢9:心中を察することは良いことかもしれないが、本文で挙げられている三徳(直・諒・多聞)には直接当てはまらない。
- 選択肢10:これは「諒を友とす」の「諒」にあたり、益者三友の一つ。しかし、一般的に「直」の友は得がたく、より重要な徳とされることが多いため、設問の意図としては6がより中心的な答えとなることが多い。2, 6, 10はいずれも益者だが、6が最も儒教的な友人観を表している。
【覚えておきたい知識】
重要句法:「AをBとす」
- 意味:「AをBとする」「AをBとみなす」。本文の「直を友とす」は、「正直な人物を友人とする」という意味。目的語(A)とその役割・性質(B)を示す、漢文の基本的な構造の一つ。
重要単語:益者三友と損者三友
- 【益者三友】
- 直(ちょく):正直で率直なこと。ごまかしがなく、友人の過ちもきちんと指摘してくれる人。
- 諒(りょう):誠実なこと。信義にあつく、嘘偽りがない人。
- 多聞(たぶん):博識であること。見聞が広く、多くの知識を持っている人。
- 【損者三友】
- 便辟(べんぺき):相手の機嫌を取るのがうまく、体裁ばかりを繕うこと。うわべだけの人。
- 善柔(ぜんじゅう):面と向かっては媚びへつらい、人当たりは良いが、誠実さに欠けること。面従腹背の人。
- 便佞(べんねい):口先だけで、心がこもっていないこと。口がうまいだけで中身のない人。
背景知識:儒教における「友」
出典は『論語』季氏篇。儒教では、自己の人格を磨き、成長すること(修己)が非常に重要視される。そのため、付き合う友人も、自分を成長させてくれる存在であるべきだと考えられた。ここで言う「益」とは、単なる金銭的・物質的な利益ではなく、自分自身の徳を高め、人格を向上させてくれるという「道徳的な利益」を指す。逆に「損」とは、自分の徳を損ない、人格を堕落させる友人という意味である。この「益者三友・損者三友」は、どのような友を選ぶべきかという、孔子の具体的な人間関係論として有名である。