3-3: ちょっとマニアック?【Split Infinitive (分離不定詞)】
to不定詞の旅もいよいよ佳境に入ってきました。これまでのレッスンでは、to不定詞は「to + 動詞の原形」という形で、この2つの要素は常に仲良く隣り合っているのが普通でしたね。
しかし、英語の世界には、この to と 動詞の原形 の間に、adverb (副詞) などの別の単語が「割り込んで」くることがあるんです。 このように to と動詞の原形が分離された不定詞のことを、「Split Infinitive (スプリット インフィニティヴ/分離不定詞)」と呼びます。 有名な例としては、スタートレックの有名なフレーズ「to boldly go where no one has gone before (未だかつて誰も行ったことのない場所へ、勇敢に赴く)」があります。
分離不定詞とは? ~形と論争の歴史~
分離不定詞の形は、以下のようになります。
to + (主に)副詞 + 動詞の原形
なぜ議論の的に?
実はこの分離不定詞、長い間、英文法学者の間で「使うべきか、使わざるべきか」という論争の的でした。 伝統的な文法学者の中には、分離不定詞を「誤り」または「避けるべき悪形」と見なす人もいました。 その理由の一つは、ラテン語の影響です。ラテン語では不定詞が1語の動詞の形であり、分離することが物理的に不可能だったため、「英語の不定詞も分離すべきではない」という考え方があったのです。
しかし、言葉は生き物です。現代の英語では、特に意味を明確にしたり、特定の語を強調したり、より自然な語調にしたりするために、分離不定詞が容認され、実際に使われるケースも増えています。 ただし、今でもフォーマルな文書などでは避けた方が無難とされることもあります。
割り込む副詞のイメージ
to と 動詞の原形 の間に、副詞が「グイッ」と割り込むイメージです。
分離不定詞が使われる理由(メリット)
では、なぜあえて to と動詞の原形を分離することがあるのでしょうか? 主な理由としては以下のような点が挙げられます。
メリット | 説明 | 例文 |
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意味の明確化 | 副詞がどの動詞を修飾しているのかをハッキリさせたい場合。副詞を他の位置に置くと、意味が曖昧になったり、意図しない単語を修飾してしまったりするのを避けるため。 |
She decided to gradually increase her workout time.
(彼女は徐々にトレーニング時間を増やすことに決めた。副詞 gradually が increase を修飾することが明確)cf. She decided to increase her workout time gradually.
(この場合も意味は通じるが、分離した方が「徐々に増やす」という結びつきが強い)
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強調 | 割り込ませた副詞の意味を強調したい場合。 |
You need to really focus on this task.
(あなたはこの仕事に本当に集中する必要がある。 really が強調される)
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自然な語調・リズム | 無理に副詞を別の位置に動かすよりも、分離した方が文のリズムが良くなったり、自然に聞こえたりする場合がある。 |
We aim to better understand our customers.
(私たちは顧客をより良く理解することを目指している。 better の位置として自然)
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分離不定詞の例文
実際に分離不定詞がどのように使われるか、もう少し例を見てみましょう。
We need to carefully consider all the options.
私たちは全ての選択肢を注意深く検討する必要がある。
(carefully が consider を修飾することを明確に)
She hopes to eventually start her own business.
彼女は最終的には自分の事業を始めたいと望んでいる。
(eventually をこの位置に置くのが自然に響く場合)
The goal is to significantly increase sales next quarter.
目標は、次の四半期に売上を大幅に増加させることだ。
(significantly を強調)
He promised to never again make such a mistake.
彼は二度とあのような間違いを決してしないと約束した。
(never again という副詞句を挿入)
Please try to consciously relax your shoulders.
肩の力を意識的に抜くようにしてみてください。
(consciously が relax を修飾)
使用する際の注意点
分離不定詞は現代英語で容認される傾向にありますが、使う際にはいくつか注意しておきたい点があります。
- フォーマルな場面:非常にフォーマルな学術論文や公式文書、あるいは厳格な文法が求められる試験などでは、念のため避けた方が無難かもしれません。読み手がどのように受け取るかによります。
- 不自然な分離:意味が明確になるわけでもなく、ただ不自然に聞こえるだけの分離は避けるべきです。例えば、長い副詞句を無理やり挟むのは良くありません。
(例 to with great effort and determination achieve a goal → to achieve a goal with great effort and determination) - 基本は分離しない:「to + 動詞の原形」が不定詞の基本形であるという意識は常に持っておきましょう。分離はあくまで「例外的なケース」あるいは「特定の効果を狙う場合」と考えるのが良いでしょう。
- 迷ったら分離しない:分離すべきかどうか迷った場合は、分離しない形を選ぶのが安全です。多くの場合、副詞を文末や動詞の前に置くなど、他の位置でも意味は通じます。
結論として、分離不定詞は「絶対ダメ!」というわけではありませんが、「いつでもOK!」というわけでもありません。 コミュニケーションの目的や、文の明確さ、自然さを考えて使うかどうかを判断するのが大切です。