English Story (CEFR: A2)
Kumicho followed the silver-haired girl through the forest. The floating lights stayed with them, swaying like lanterns in the wind.
The path narrowed, winding between tall trees. Branches arched overhead, forming a green tunnel touched by moonlight.
They walked in silence. The girl’s steps were light, almost soundless. Kumicho didn’t know where they were going, but he didn’t feel lost. He felt… guided.
After a while, they reached a small hill. At the top was a round platform made of stone. It looked ancient, covered in moss and carved with gentle patterns.
The girl turned to face him. Her lips moved, but no sound came.
Yet, Kumicho understood. Not with his ears—but with something deeper. Her voice was like a thought placed gently in his heart.
“Do you remember this place?”
Kumicho looked around. The platform, the trees, the sky… He shook his head slowly.
“No,” he replied. “Have I been here before?”
The girl smiled. “You have always been here. Part of you never left.”
He wanted to ask what that meant—but the words faded before reaching his mouth. Instead, he stepped onto the platform.
The lights floated upward, spinning slowly. A breeze passed through, warm and fragrant, like summer grass after rain.
The girl raised both hands. From the stone beneath them, lines of light spread outward, like roots or rivers, glowing gently.
Kumicho felt the ground hum beneath his feet. It was as if the earth itself remembered him.
“Why am I here?” he asked, softly.
The girl lowered her hands. “Because you are ready to remember.”
日本語訳
クミチョは、銀色の髪の少女のあとを、森の中を静かに歩いていきました。ふわふわと漂う光たちが、まるで風に揺れる提灯のように、二人に寄り添っていました。
道はだんだんと細くなり、高い木々の間をくねくねと続いていました。枝が上で重なり、月明かりの差し込む緑のトンネルのようになっていました。
ふたりのあいだに言葉はありませんでした。少女の足音はほとんど聞こえず、森の静けさの中に溶け込んでいました。クミチョはどこへ向かっているのか分かりませんでしたが、不思議と不安は感じませんでした。ただ、導かれているような感覚がありました。
やがて、小さな丘にたどり着きました。丘の頂上には、まるい石の台座がありました。古びたその石は、苔に覆われ、優しい模様が彫られていました。
少女が振り向きました。唇が動いたのに、音は聞こえません。
けれど、クミチョには分かりました。耳ではなく、もっと深いところ――心に直接語りかけるような、優しい「声」でした。
「この場所を覚えていますか？」
クミチョはあたりを見回しました。石の台、木々、夜空…。ゆっくりと首を横に振りました。
「いいえ。…ここに来たことがあるんですか？」
少女は微笑みました。「あなたはいつもここにいました。あなたの一部は、ここを離れたことがないのです。」
その言葉の意味を尋ねようとしたけれど、口を開く前に言葉は消えてしまいました。代わりに、クミチョは静かに台座の上へと歩を進めました。
小さな光がふわりと舞い上がり、ゆっくりと回り始めました。風がやさしく吹きぬけ、雨上がりの草のような、あたたかく懐かしい香りがしました。
少女が両手を掲げると、石の台座から淡い光の線がすっと広がっていきました。まるで根っこや川のように、地面に静かに流れ、輝いていました。
クミチョは足元から、かすかな振動を感じました。大地そのものが、自分を覚えているかのような感覚でした。
「どうして…僕はここにいるんだろう？」
クミチョの声は、とても小さく響きました。
少女は手をおろし、静かに答えました。「あなたが、“思い出す準備”をしたからです。」