第4章 期待値Expected Value ~平均してどれくらい期待できる?~
4-2: 期待値の応用 ~くじや保険を分析!~
前のページでは、期待値 $E$ が「(値)$\times$(その確率)」を全部足し合わせたもの、$E = \sum x_i p_i$ として計算できることを学んだね。サイコロの目の期待値が3.5になる、なんて例も見た。
この期待値、「平均してどれくらいか」が分かるのは面白いけど、一体何の役に立つの?と思うかもしれないね。実は、期待値は私たちの身の回りの様々な場面での「意思決定decision making」や、物事の「有利さ・不利さ」を分析するための強力な道具になるんだ!
今回は、特に身近な例として「くじ・ギャンブル」と「保険」を取り上げて、期待値がどう使われているかを見てみよう。
応用例1:くじ・ギャンブルGambleの分析
「この宝くじ、買うべき?」「このゲーム、参加したら得するかな?」そんなことを考えるとき、期待値が役に立つよ。
基本的な考え方は、「そのくじやギャンブルから得られる賞金(や価値)の期待値」と「参加するために支払う費用」を比べることだ。もし期待値の方が費用より大きければ、長い目で見れば得する可能性が高いと言えるし、逆に期待値の方が費用より小さければ、長い目で見れば損する可能性が高いと言えるんだ。(もちろん、1回や2回で必ずそうなるとは限らないけどね!)
例題1(復習):あのくじは「割に合う」?
前のページで考えたくじをもう一度見てみよう。1本100円で引けて、賞金と確率は以下の通りだった。
- 1等:1000円 (確率 $1/100$)
- 2等: 500円 (確率 $5/100$)
- 3等: 100円 (確率 $10/100$)
- はずれ: 0円 (確率 $84/100$)
賞金の期待値は $E(\text{賞金}) = 45$円 と計算できたね。
では、「儲け(賞金 - 参加費)」の期待値を計算してみよう。
結果 | 儲け ($x_i$) | 確率 ($p_i$) | $x_i \times p_i$ |
---|---|---|---|
1等 | $1000 - 100 = 900$円 | $1/100$ | $900 \times 1/100 = 9$円 |
2等 | $500 - 100 = 400$円 | $5/100$ | $400 \times 5/100 = 20$円 |
3等 | $100 - 100 = 0$円 | $10/100$ | $0 \times 10/100 = 0$円 |
はずれ | $0 - 100 = -100$円 | $84/100$ | $-100 \times 84/100 = -84$円 |
合計(儲けの期待値 $E$) | $9 + 20 + 0 - 84 = -55$円 |
儲けの期待値 $E(\text{儲け}) = -55$ 円
結論: このくじは、1回引くごとに平均して55円損することが期待される。期待値の観点からは、あまり「割に合う」とは言えないかもしれないね。(もちろん、「当たるかもしれない」というワクワク感、夢を買うという価値は別だけどね!)
(ちなみに、期待値の性質 $E(X - c) = E(X) - c$ を使うと、$E(\text{儲け}) = E(\text{賞金} - 100) = E(\text{賞金}) - 100 = 45 - 100 = -55$円 と、もっと簡単に計算することもできるよ。)
例題2:サイコロゲームは得か損か?
こんなゲームを考えてみよう。
- 参加費:100円
- ルール:公正なサイコロを1回振る。
- 賞金:出た目の数 $\times 10$ 円がもらえる。
問題:このゲームに参加するのは、期待値の観点から見て得でしょうか、損でしょうか?
まず、もらえる賞金の期待値 $E(\text{賞金})$ を計算しよう。
$E(\text{賞金}) = (1 \times 10 \times \frac{1}{6}) + (2 \times 10 \times \frac{1}{6}) + (3 \times 10 \times \frac{1}{6}) + (4 \times 10 \times \frac{1}{6}) + (5 \times 10 \times \frac{1}{6}) + (6 \times 10 \times \frac{1}{6})$
$E(\text{賞金}) = (\text{出る目の期待値}) \times 10$ と考えてもいいね。
出る目の期待値は例題1で $3.5$ と分かっているので、
$E(\text{賞金}) = 3.5 \times 10 = 35$ 円
次に、「儲け」の期待値を計算する。
儲けの期待値 = $E(\text{賞金}) - \text{参加費} = 35 \text{円} - 100 \text{円} = -65 \text{円}$
結論: このゲームの儲けの期待値はマイナスなので、期待値の観点からは損と言える。
応用例2:保険Insurance の仕組み
みんなは「保険」というものについて聞いたことがあるかな?病気やケガ、事故、火事など、もしもの時に大きなお金が必要になったときに、その支払いを助けてくれる仕組みだね。
保険に加入する人は、毎月や毎年、決まった額の「保険料premium」を保険会社に支払う。そして、もしもの事態(保険事故)が起こったら、保険会社からまとまった「保険金payout」を受け取ることができる。
この保険の仕組みも、期待値を使って分析することができるんだ。
例題3:簡単な火災保険の例
ある家について、以下の状況を考えよう。
- 1年間に火災に遭う確率: $P(\text{火災}) = 0.001$ (0.1%)
- 1年間火災に遭わない確率: $P(\text{無事}) = 1 - 0.001 = 0.999$ (99.9%)
- 火災に遭った場合の損害額(修理費など): 2000万円
- この損害をカバーする火災保険の年間保険料: 3万円
【加入者の視点】この保険に入るのは得か損か?(期待値で考える)
保険に入ることで得られる「価値」は、損害を補ってもらえることだ。その価値の期待値を計算しよう。
- 火災に遭った場合: 2000万円の損害を補ってもらえる(価値2000万円)。確率 $0.001$。
- 火災に遭わない場合: 損害はないので補ってもらう額は0円(価値0円)。確率 $0.999$。
価値の期待値 $E(\text{価値}) = (20,000,000 \text{円} \times 0.001) + (0 \text{円} \times 0.999)$
$E(\text{価値}) = 20,000 \text{円}$
一方、保険に入るためには年間30,000円の保険料を支払う。
加入者の「損得」の期待値 = $E(\text{価値}) - \text{保険料} = 20,000 \text{円} - 30,000 \text{円} = -10,000 \text{円}$
解釈: 期待値だけを見ると、加入者は平均して年間1万円損することになる。でも、多くの人が保険に入るのはなぜだろう? それは、めったに起こらないけれど、もし起こったら非常に大きな損害(2000万円!)を受けるというリスクriskを、比較的少ない費用(3万円)で回避できるからだ。期待値では測れない「安心感」を買っているとも言えるね。多くの人は、期待値がマイナスでも大きな損失を避けたい(リスク回避的risk averse)と考えるんだ。
【保険会社の視点】この保険商品は儲かるか?(期待値で考える)
保険会社にとっての収入は保険料、支出は保険金だ。
- 収入の期待値: 1契約あたり年間30,000円(確率1で受け取る)。 $E(\text{収入}) = 30,000$円。
- 支出(保険金支払い)の期待値:
$(20,000,000 \text{円} \times P(\text{火災})) + (0 \text{円} \times P(\text{無事}))$
$= (20,000,000 \times 0.001) + (0 \times 0.999) = 20,000$円。
$E(\text{支出}) = 20,000$円。
保険会社の期待利益(1契約あたり)= $E(\text{収入}) - E(\text{支出})$
期待利益 = $30,000 \text{円} - 20,000 \text{円} = 10,000 \text{円}$
解釈: 保険会社は、たくさんの契約を集めることで、大数の法則によって、1契約あたり平均して1万円の利益を期待できる(実際には会社の運営費などもかかるけどね)。これが保険ビジネスが成り立つ仕組みなんだ。
まとめ
- 期待値は、くじやギャンブルの「割に合う度」や、参加すべきかどうかの判断材料になる。
- 保険のように、期待値(損得)だけでは測れない価値(安心感、リスク回避)も考慮する必要がある場合もある。
- 期待値は、長期的な視点や多数の試行を平均した場合の結果を予測するのに役立つ。
期待値の考え方、少し身近に感じられたかな?身の回りのことで「これは期待値で考えるとどうなるんだろう?」と考えてみるのも面白いかもしれないね!
このページで出てきたEnglish wordsとその仲間たち
英単語 (English) | 意味 (Meaning) | 例文 (Example Sentence) | 例文の読み上げ | 例文の日本語訳 |
---|---|---|---|---|
Application | 応用、適用 | Expected value has many practical applications. | ▶ 再生 | 期待値には多くの実用的な応用があります。 |
Decision Making | 意思決定 | Expected value can be a tool for rational decision making under uncertainty. | ▶ 再生 | 期待値は、不確実性の下での合理的な意思決定のためのツールとなり得ます。 |
Gamble | ギャンブル、賭け事 | Calculating the expected value can help analyze a gamble. | ▶ 再生 | 期待値を計算することは、ギャンブルを分析するのに役立ちます。 |
Lottery | 宝くじ、くじ引き | The expected value of a lottery ticket is usually less than its cost. | ▶ 再生 | 宝くじの期待値は通常、その価格よりも低いです。 |
Insurance | 保険 | Insurance is a way to manage risk. | ▶ 再生 | 保険はリスクを管理する方法です。 |
Premium | 保険料 | Policyholders pay a premium for insurance coverage. | ▶ 再生 | 保険契約者は、保険の補償のために保険料を支払います。 |
Payout / Claim | 保険金(支払い)/ 保険金請求 | The insurance payout covers the cost of the damage. / He filed a claim after the accident. | ▶ 再生 | 保険金が損害費用を補填します。 / 彼は事故の後、保険金請求を行いました。 |
Risk Aversion | リスク回避 | People buy insurance due to risk aversion, even if the expected monetary value is negative. | ▶ 再生 | 期待金額がマイナスであっても、人々はリスク回避のために保険を購入します。 |