第3章 条件付き確率 ~ある出来事が起こったという情報の下で~
3-2: 条件付き確率Conditional Probability の計算式と乗法定理Multiplication Rule
前のページでは、「事象Aが起こった」という条件のもとで「事象Bが起こる」確率 $P(B|A)$、つまり条件付き確率の基本的な考え方を学んだね。考える範囲(標本空間)が事象Aに絞られるイメージだった。
そして最後に、条件付き確率を計算する式として
$P(B|A) = \frac{P(A \cap B)}{P(A)}$
を紹介したね。今回はこの計算式をもう少し詳しく見て、さらにこの式から導かれる「確率の乗法定理」について学んでいこう!
条件付き確率の計算式 (復習と解説)
事象Aが起こる確率 $P(A)$ が0より大きいとき、事象Aが起こったという条件のもとで事象Bが起こる条件付き確率 $P(B|A)$ は、次の式で計算できるんだったね。
$P(B|A) = \frac{P(A \cap B)}{P(A)}$
ここで、
- $\mathbf{P(B|A)}$: 求めたい条件付き確率(Aが起こった後でBが起こる確率)
- $\mathbf{P(A \cap B)}$: 事象Aと事象Bが両方とも起こる確率(積事象の確率)。読み方は「AかつBの確率」。
- $\mathbf{P(A)}$: 条件となる事象Aが起こる確率(事前確率prior probability とも呼ばれる)。
この式は、「事象Aが起こった」という範囲に注目したとき、その中で「さらに事象Bも起こっている(つまりAとBが両方起こっている)」部分の割合を見ている、と解釈できるんだ。
$P(B|A)$ は A の中で A∩B が占める割合
例題1:テストの点数と条件付き確率
あるクラスで、数学で80点以上取った生徒の割合は30% ($P(M)=0.3$)、英語で80点以上取った生徒の割合は20% ($P(E)=0.2$)、そして数学と英語の両方で80点以上取った生徒の割合は15% ($P(M \cap E)=0.15$) でした。
では、「数学で80点以上取った」という条件のもとで、「英語でも80点以上取っている」確率 $P(E|M)$ はいくつでしょう?
公式 $P(E|M) = \frac{P(M \cap E)}{P(M)}$ に当てはめてみよう。
$P(E|M) = \frac{0.15}{0.30} = \frac{15}{30} = \frac{1}{2} = 0.5$
答え: 0.5 (または 50%)
これは、「数学で80点以上取った生徒たち」だけを見てみると、そのうちの半数が英語でも80点以上だった、ということを意味しているね。
例題2:番号札と条件付き確率
1から10までの番号が書かれた札が1枚ずつ、合計10枚あります。この中から1枚を引く試行を考えます。
「引いた番号が偶数だった」という条件のもとで、「その番号が6以上である」確率 $P(\text{6以上} | \text{偶数})$ を計算してみましょう。
- 事象A:「偶数」= {2, 4, 6, 8, 10} $\implies P(A) = \frac{5}{10}$
- 事象B:「6以上」= {6, 7, 8, 9, 10} $\implies P(B) = \frac{5}{10}$
- 事象 $A \cap B$:「偶数 かつ 6以上」= {6, 8, 10} $\implies P(A \cap B) = \frac{3}{10}$
公式 $P(B|A) = \frac{P(A \cap B)}{P(A)}$ を使って、
$P(\text{6以上} | \text{偶数}) = \frac{P(A \cap B)}{P(A)} = \frac{3/10}{5/10} = \frac{3}{5}$
答え: $\frac{3}{5}$
(これは、偶数の{2, 4, 6, 8, 10}の5つの数字の中で、6以上の{6, 8, 10}が3つあることから $\frac{3}{5}$ となる、という直感的な考え方とも一致するね!)
確率の乗法定理Multiplication Rule(一般の場合)
条件付き確率の計算式 $P(B|A) = \frac{P(A \cap B)}{P(A)}$ の両辺に $P(A)$ を掛けると、次の式が得られるね。
$P(A \cap B) = P(A) \times P(B|A)$
これを確率の乗法定理Multiplication Rule と言うんだ。これは、事象Aと事象Bが両方とも起こる確率(積事象の確率)を計算するための、とても重要な公式だよ。
この式が言っているのは、「まず事象Aが起こり、次に(Aが起こったという条件の下で)事象Bが起こる」という連続した出来事の確率を考えているんだ。
もちろん、順番を逆にして考えても同じことだから、
$P(A \cap B) = P(B) \times P(A|B)$
も成り立つよ。($P(A|B)$ は、Bが起こった条件でのAの確率)
独立な場合との関係:
もし事象Aと事象Bが独立だったら、$P(B|A) = P(B)$ だったよね。だから、独立な場合は乗法定理が
$P(A \cap B) = P(A) \times P(B)$
となって、前のページで学んだ独立事象の乗法定理とちゃんと一致するんだ!
例題3:くじ引きで2人とも当たる確率(非復元)
袋の中に当たりくじが2本、はずれくじが3本、合計5本入っている。A君、B君の順に1本ずつくじを引く。引いたくじは元に戻さない(非復元抽出)。このとき、A君もB君も当たる確率 $P(\text{A当たり} \cap \text{B当たり})$ を求めよ。
考え方:
これは独立ではない例だね。A君の結果がB君の確率に影響する。
- 事象A: A君が当たる $\implies P(A) = \frac{2}{5}$
- 事象B: B君が当たる
- $P(B|A)$: A君が当たった後で、B君が当たる確率。
A君が当たった後、くじは残り4本で、その中に当たりは1本。だから、$P(B|A) = \frac{1}{4}$。
乗法定理 $P(A \cap B) = P(A) \times P(B|A)$ を使って、
$P(\text{A当たり} \cap \text{B当たり}) = \frac{2}{5} \times \frac{1}{4} = \frac{2}{20} = \frac{1}{10}$
答え: $\frac{1}{10}$
樹形図で考えると分かりやすい
例題4:製品と不良品の確率
ある製品は、工場Aで作られる確率が60% ($P(A)=0.6$)、工場Bで作られる確率が40% ($P(B)=0.4$) である。
工場Aで作られた製品が不良品である確率(条件付き確率)は3% ($P(\text{不良}|A)=0.03$)。
工場Bで作られた製品が不良品である確率(条件付き確率)は5% ($P(\text{不良}|B)=0.05$)。
製品を1つランダムに選んだとき、それが「工場Aで作られた不良品」である確率 $P(A \cap \text{不良})$ を求めてみよう。
乗法定理 $P(A \cap \text{不良}) = P(A) \times P(\text{不良}|A)$ を使うよ。
$P(A \cap \text{不良}) = 0.6 \times 0.03 = 0.018$
答え: 0.018 (または 1.8%)
(ちなみに、「工場Bで作られた不良品」である確率は $P(B \cap \text{不良}) = P(B) \times P(\text{不良}|B) = 0.4 \times 0.05 = 0.020$ (2.0%) となるね。)
まとめ
- 条件付き確率 $P(B|A)$ は、「Aが起こった」という情報があるときのBの確率で、$\mathbf{P(B|A) = \frac{P(A \cap B)}{P(A)}}$ で計算できる。
- 確率の乗法定理 $\mathbf{P(A \cap B) = P(A) \times P(B|A)}$ は、AとBが両方起こる確率を求めるための強力なツール。
- 特に、事象が独立でない(従属の)場合に、連続して起こる確率を計算するときに役立つ。
条件付き確率と乗法定理は、確率の問題を解く上でとても大切だから、しっかり理解しておこうね!
このページで出てきたEnglish wordsとその仲間たち
英単語 (English) | 意味 (Meaning) | 例文 (Example Sentence) | 例文の読み上げ | 例文の日本語訳 |
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Conditional Probability Formula | 条件付き確率の公式 | The conditional probability formula is $P(B|A) = P(A \cap B) / P(A)$. | ▶ 再生 | 条件付き確率の公式は $P(B|A) = P(A \cap B) / P(A)$ です。 |
Multiplication Rule (general) | 乗法定理(一般) | The general multiplication rule is $P(A \cap B) = P(A) \times P(B|A)$. | ▶ 再生 | 一般の乗法定理は $P(A \cap B) = P(A) \times P(B|A)$ です。 |
Joint Probability | 同時確率 ($P(A \cap B)$のこと) | The joint probability $P(A \cap B)$ is the probability that both events A and B occur. | ▶ 再生 | 同時確率 $P(A \cap B)$ は、事象AとBの両方が起こる確率です。 |
Prior Probability | 事前確率 ($P(A)$など、条件付け前の確率) | $P(A)$ is sometimes called the prior probability of A. | ▶ 再生 | $P(A)$ は、Aの事前確率と呼ばれることがあります。 |
Posterior Probability | 事後確率 ($P(A|B)$など、条件付け後の確率) | Bayes' theorem relates prior probability to posterior probability $P(A|B)$. | ▶ 再生 | ベイズの定理は、事前確率を事後確率 $P(A|B)$ に関連付けます。 |
Tree Diagram | 樹形図 | A tree diagram can help visualize sequences of events and their probabilities. | ▶ 再生 | 樹形図は、一連の事象とその確率を視覚化するのに役立ちます。 |