現代文対策問題 51

本文

近年、私たちは、かつてないほど多くの「情報」に囲まれて生活している。スマートフォンを開けば、世界中のニュースが瞬時に手に入り、SNSは、知人の近況から、専門家の意見まで、絶えず私たちに何かを語りかけてくる。この情報の洪水は、一見、私たちの知識を豊かにし、より賢明な判断を下す手助けをしてくれるように思えるかもしれない。

しかし、私は、ここに一つの逆説が潜んでいると考える。すなわち、情報の量が増えれば増えるほど、私たちは、かえって深く「思考」しなくなっているのではないか、ということだ。次から次へと流れてくる断片的な情報を受け身で消費することに慣れてしまうと、一つの事柄をじっくりと多角的に吟味したり、情報の裏側にある文脈や意図を読み解いたりする、知的な体力が衰えていく。検索すればすぐに「正解」とされるものにアクセスできるという利便性が、答えに至るまでの試行錯誤のプロセスを、私たちから奪っていくのだ。

もちろん、情報の価値を否定するものではない。問題なのは、情報と思考を混同してしまうことだ。情報を集めることは、あくまで思考の出発点にすぎない。重要なのは、集めた情報を鵜呑みにするのではなく、それらを素材として、自分自身の頭で問いを立て、自分なりの答えを構築していくことである。そのためには、時には、情報の流れから意識的に距離を置き、一人、沈思黙考する「空白の時間」が必要不可欠となる。情報の洪水の中で溺れるのではなく、自らの意思で情報を泳ぎこなし、思考の岸辺に辿り着く。現代を生きる私たちには、そのような能動的な姿勢が、これまで以上に求められているのではないだろうか。


【設問1】傍線部①「情報の量が増えれば増えるほど、私たちは、かえって深く「思考」しなくなっている」とあるが、筆者がそのように考える理由の説明として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。

  1. 情報量が多すぎると、脳が処理できる限界を超えてしまい、思考機能が停止してしまうから。
  2. 大量の情報に接することで、すべての物事を相対的に見てしまい、絶対的な真理を探究する意欲が失われるから。
  3. 断片的な情報を次々と受け身で消費することに慣れ、一つの物事をじっくりと吟味する知的体力が低下するから。
  4. インターネット上の情報は、信憑性に欠けるものが多く、思考の材料として、そもそも役に立たないから。
【正解と解説】

正解 → 3

  • 1. 「思考機能が停止する」とまでは本文で述べられていません。「衰えていく」という、より緩やかな変化として書かれています。
  • 2. 「絶対的な真理の探究」といった哲学的なテーマには触れられていません。論点がずれています。
  • 3. 本文の「次から次へと流れてくる断片的な情報を受け身で消費することに慣れてしまうと、一つの事柄をじっくりと多角的に吟味したり…する、知的な体力が衰えていく」という記述と完全に一致します。思考しなくなる直接的な理由として、筆者が明確に挙げています。
  • 4. 情報の「信憑性」も問題の一つですが、筆者がここで論じているのは、情報の質ではなく、情報との接し方(態度)が思考力に与える影響です。

【設問2】傍線部②「一人、沈思黙考する「空白の時間」」とあるが、筆者がこの時間を必要不可欠だと考えるのはなぜか。その理由の説明として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。

  1. 絶え間ない情報のインプットを一時的に遮断し、自分自身の頭で問いを立て、答えを構築するため。
  2. 情報の洪水から心身を守り、精神的な疲労を回復させるための、休息の時間として必要だから。
  3. 他人の意見に惑わされず、自分の直感や感性だけを頼りに、独創的なアイデアを生み出すため。
  4. 集めた情報を整理し、記憶として定着させるための、脳科学的に証明された、効率的な学習法だから。
【正解と解説】

正解 → 1

  • 1. 筆者は、「情報を鵜呑みにするのではなく、それらを素材として、自分自身の頭で問いを立て、自分なりの答えを構築していくこと」が重要だと述べています。そのための時間として「情報の流れから意識的に距離を置」く「空白の時間」を提示しており、この選択肢がその目的を的確に説明しています。
  • 2. 「休息」という側面もありますが、筆者が強調しているのは、思考のための積極的な時間を確保するという、より能動的な目的です。
  • 3. 「直感や感性だけを頼りに」するのではなく、「集めた情報を素材として」思考すると述べているため、不適当です。
  • 4. 「脳科学的」「効率的な学習法」といった記述は本文になく、筆者の主張の範囲を超えています。

【設問3】本文で筆者が述べている「情報」と「思考」の関係性の説明として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。

  1. 「情報」は客観的な事実であり、「思考」は主観的な意見であるため、両者は明確に区別して扱うべきものである。
  2. 「情報」の量を増やすことが、「思考」の質を高めることに直結するため、積極的に多くの情報に触れるべきである。
  3. 「情報」は「思考」の出発点であり、集めた情報を素材として、自分なりの答えを構築していくことが重要である。
  4. 現代においては、「思考」よりも「情報」をいかに早く正確に入手するかが、より重要な能力となっている。
【正解と解説】

正解 → 3

  • 1. 「客観的事実」「主観的意見」といった区別の仕方は本文でなされていません。
  • 2. 筆者は、情報量を増やすことが、かえって思考を妨げる可能性を指摘しており、本文の趣旨と逆です。
  • 3. 「情報を集めることは、あくまで思考の出発点にすぎない」「それらを素材として、自分自身の頭で…答えを構築していく」という本文の記述と完全に一致します。
  • 4. 筆者は、情報と思考を混同し、情報収集ばかりを重視する風潮を批判しており、本文の趣旨と逆です。

【設問4】本文全体の趣旨として、最も適当なものを次の中から一つ選べ。

  1. 現代の情報化社会がもたらす弊害を批判し、デジタル機器から距離を置いた、シンプルな生活を推奨している。
  2. 情報の洪水に流されることなく、主体的に情報を選択し、深く思考する能動的な姿勢の重要性を論じている。
  3. 氾濫する情報の中から、いかにしてフェイクニュースを見抜き、正しい情報だけを取捨選択するかの技術を解説している。
  4. 情報格差が、新たな社会問題を生み出している現状を憂い、教育における情報リテラシーの向上を訴えている。
【正解と解説】

正解 → 2

  • 1. 「シンプルな生活を推奨」というよりは、情報社会との「向き合い方」を論じています。デジタル機器の完全な否定には至っていません。
  • 2. 「情報の洪水の中で溺れるのではなく、自らの意思で情報を泳ぎこなし、思考の岸辺に辿り着く」「能動的な姿勢」が求められている、という最後の部分が、筆者の主張の核心を要約しています。
  • 3. 「フェイクニュースの見抜き方」といった、具体的な技術論には触れられていません。
  • 4. 「情報格差」の問題は、本文では扱われていません。

語句説明:
逆説(ぎゃくせつ):一見、真理に反しているように見えて、実は、真理の一面を言い当てている表現。
吟味(ぎんみ):物事の内容・品質などを、念入りに調べること。
沈思黙考(ちんしもっこう):沈黙して、深く、物思いにふけること。
能動的(のうどうてき):自分から、進んで働きかけるさま。

レベル:大学入学共通テスト対策|問題番号:51