現代文対策問題 100

 

本文

 

    その日の昼休み、私は屋上で一人弁当を食べていた。教室の賑やかな雰囲気が苦手な私は、いつもこうして人のいない場所に逃げてくる。

    金網の向こうには青い空とどこまでも続く町の景色が広がっていた。屋上の貯水タンクの陰に先客がいることに気づいたのは、卵焼きを口に入れた時だった。同じクラスの加藤くんだった。彼はクラスでも一、二を争う秀才で、いつもたくさんの友人に囲まれている人気者だ。そんな彼がどうしてこんな場所に一人で。

    意外な組み合わせに私は少し戸惑った。声をかけるべきか迷っていると、彼の方から気づいた。

    「なんだ、桜井さんか。ここ、特等席だよな」

    彼は悪戯っぽく笑うと、隣に座るよう手で示した。私はおそるおそる彼の隣に腰を下ろした。

    「時々一人になりたいんだ。人が多いと、なんか疲れちゃって

    ぽつりと彼が言った。その横顔は教室で見る快活な彼とはまるで別人のように静かで、少し寂しそうだった。私はその時初めて、彼も私と同じなのだと思った。人気者の彼も、時には人知れず一人で空を眺めたい夜があるのかもしれない。私たちはそれきり何も話さなかった。でも、その沈黙は少しも気まずくなかった。  

 
 

【設問1】傍線部「時々、一人に、なりたいんだ。人が、多いと、なんか、疲れちゃって」という加藤くんの言葉から分かる彼の内面として、最も適当なものを次の中から一つ選べ。

 
       
  1. 友人たちとの関係がうまくいっておらず、深い悩みを抱えている。
  2.    
  3. 普段、周囲の期待に応えようと明るく振る舞っているが、実は気疲れする繊細な一面も持っている。
  4.    
  5. クラスメイトたちを見下しており、一人で過ごす時間の方が有意義だと考えている。
  6.    
  7. 本当は内気な性格なのに、無理して人気者を演じている自分に嫌気がさしている。
  8.  
 
    【正解と解説】    
     

正解 → 2

     
           
  • 1. 「うまくいっていない」とまでは断定できません。むしろ、良好な関係を維持するために気を使っていると考えられます。
  •        
  • 2. 加藤くんは周りからは「人気者」と見なされていますが、彼自身はその人間関係の中で気を使って疲れてしまう側面を持っています。彼のこの告白は、普段見せている外面的な顔とは違う彼のデリケートな内面を示しています。人気者という役割を演じることに伴う精神的な負担がうかがえます。
  •        
  • 3. 「見下している」という傲慢な態度ではなく、むしろ人間関係の中で疲れてしまうという彼の弱さが表れています。
  •        
  • 4. 「嫌気がさしている」という強い自己否定までには至っていません。あくまでバランスを取るために一人の時間を必要としているのです。
  •      
   
 
 

【設問2】この出来事を通して、「私」の加藤くんに対する見方はどのように変化したか。最も適当なものを次の中から一つ選べ。

 
       
  1. 彼の意外な弱さを知ったことで、彼を守ってあげたいという母性本能が芽生えた。
  2.    
  3. 人気者の彼も実は孤独なのだと知り、自分だけの特別な共感を覚えた。
  4.    
  5. 自分とは住む世界が違うと思っていた彼との間に、予期せぬ共通点を見出し親近感を抱いた。
  6.    
  7. 彼の人気が実は作られたものであると知り、幻滅と軽蔑の気持ちを抱いた。
  8.  
 
    【正解と解説】    
     

正解 → 3

     
           
  • 1. 「母性本能」というのは、少し行き過ぎた解釈です。
  •        
  • 2. 「自分だけの特別な共感」というよりは、彼をより身近な存在として感じ始めたというニュアンスです。
  •        
  • 3. 「私」は当初、加藤くんを自分とは対極にいる存在だと認識していました。しかし、屋上で彼の意外な本音を聞いたことで、「彼も私と同じなのだ」と気づきます。この発見は、二人の間にあった見えない壁を取り払い、彼を自分と同じように悩みを抱える一人の人間として捉え直すきっかけとなりました。最後の「少しも気まずくなかった」沈黙は、その結果として生まれた心地よい親近感を象徴しています。
  •        
  • 4. 「幻滅」や「軽蔑」といった否定的な感情は全く読み取れません。むしろ、彼の人間的な側面に触れて好感を持っています。
  •      
   
 
 

レベル:大学入学共通テスト対策|問題番号:100