現代文対策問題 60

本文

文化祭の準備でざわめく放課後の教室で、美咲は窓の外を見ていた。運動場ではサッカー部が練習している。その中に、幼馴染の亮平の姿もあった。美咲は亮平のことが好きだった。でも、その気持ちは誰にも言えずに、もう三年が過ぎようとしている。

美咲の仕事は、クラスの出し物で使う看板のデザインだった。画用紙に何度も下書きをするが、なかなか気に入ったものが描けない。周りでは楽しそうな笑い声が聞こえる。自分だけがこのお祭りの輪から取り残されているような気がした。

「何、描いてんの」

不意に後ろから声をかけられ、美咲はびくりと肩を震わせた。亮平だった。練習が終わったのか、少し汗ばんだ顔で美咲の手元を覗き込んでいる。

「う、ううん。何でもない」

美咲は慌てて描きかけの画用紙を裏返した。心臓が大きく音を立てる。

「ふーん。あっ、そうだ。これ、やるよ」

亮平はそう言うと、ポケットから取り出した缶ジュースを美咲の机に置いた。冷たい水滴が机に小さな染みを作った。

別に、余っただけだから。じゃあな

彼はぶっきらぼうにそう言い残して教室を出ていった。美咲はしばらくその缶ジュースを見つめていた。オレンジのパッケージには水滴がきらきらと光っている。それはまるで宝石のようだった。美咲は画用紙をもう一度表に返すと、鉛筆を握り直した。さっきより少しだけ、うまく描けるような気がした。


【設問1】亮平が美咲に缶ジュースを渡した時の、彼の態度や言葉からうかがえる気持ちとして最も適当なものを、次の中から一つ選べ。

  1. 美咲のことが好きで、何とか気を惹きたいが、どう接すればいいか分からず、照れ隠しでそっけなく振る舞っている。
  2. 練習で疲れて機嫌が悪く、たまたまそこにいた美咲に八つ当たりをしている。
  3. 他の部活の仲間との付き合いで仕方なくジュースを渡しているだけで、美咲に対して特別な感情はない。
  4. 美咲が自分に好意を寄せていることに気づいており、わざと思わせぶりな態度をとってからかっている。
【正解と解説】

正解 → 1

  • 1. 亮平はわざわざ教室にいる美咲の元へやってきてジュースを渡しています。この行動自体が彼女への関心を示しています。しかし、その渡し方は「ぶっきらぼう」で、「別に、余っただけだから」という素っ気ない言葉を添えています。これは自分の本当の気持ち(好意や心配)を悟られるのが恥ずかしいという、思春期の少年特有の「照れ隠し」であると解釈するのが最も自然です。
  • 2. 「八つ当たり」をするなら、わざわざジュースを渡すという親切な行動はとりません。
  • 3. 「仕方なく」渡している、という義務的な様子はうかがえません。
  • 4. 「からかっている」という意地悪なニュアンスは、本文の爽やかな雰囲気とは合いません。

【設問2】傍線部「別に、余っただけだから。じゃあな」という亮平の言葉を聞いた後の美咲の様子から分かる、彼女の心境の変化として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。

  1. 亮平のそっけない態度に深く傷つき、デザインを描く気力を完全に失ってしまった。
  2. ジュースが余り物だったことにがっかりし、亮平への気持ちが冷めていくのを感じている。
  3. 亮平の不器用な優しさに触れたことで、孤独感が和らぎ、やる気を少し取り戻した。
  4. 自分の気持ちが亮平に見透かされていると思い、恥ずかしさのあまり、その場から逃げ出したくなった。
【正解と解説】

正解 → 3

  • 1. 「気力を完全に失った」のではなく、むしろこの後、再び鉛筆を握り直しています。
  • 2. 「がっかり」したというより、彼の言葉の裏にある本心を感じ取っています。
  • 3. ジュースを受け取る前の美咲は、周囲から「取り残されているような」孤独感を感じていました。しかし、亮平のささやかな行動によって、彼が自分を気にかけてくれていることを感じます。缶ジュースを「宝石のようだった」と思う彼女の感性は、その喜びを表しています。そして、その喜びが彼女に「さっきより少しだけうまく描けるような気がした」という前向きな気持ちをもたらしたのです。
  • 4. 「逃げ出したくなった」のではなく、彼の去った後、一人でその余韻に浸っています。

レベル:大学入学共通テスト対策|問題番号:60