現代文対策問題 1

本文

夕暮れのバス停に、僕は一人で座っていた。空は淡いオレンジ色から深い藍色へと移り変わり、街灯がぽつりと灯り始める。ひんやりとした風が頬を撫で、僕は思わず身震いした。今日、僕は親友と些細なことで口論になり、気まずい沈黙のまま別れてしまった。バスを待つこの短い時間が、やけに長く感じられる

ポケットの中のスマートフォンを何度も取り出そうとしては、やめた。彼に送るべき言葉が見つからない。謝るべきなのは自分だと分かっているのに、素直になれない意地が胸の奥で渦巻いている。言葉を探すうちに、彼の些細な癖や、二人で笑い合った記憶ばかりが浮かんでくる。

バスのヘッドライトが遠くに見えた時、僕はふと、いつも二人で分け合ったイヤホンの片方を思い出した。同じ曲を聴きながら、くだらない冗談で笑い合った、あの帰り道。その温かい記憶が、冷え切った心に小さな灯りをともすようだった。意地を張っていても、この気まずい時間が続くだけだ。バスが到着する前に、僕はスマートフォンを取り出し、「ごめん」とだけ打ち始めた。


【設問1】傍線部「やけに長く感じられる」とあるが、この時の「僕」の心情の説明として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。

  1. バスが遅れていることへの苛立ちと、早く家に帰りたいという焦りが入り混じっている。
  2. 親友と気まずい別れ方をした後悔と、どうすれば良いか分からない手持ち無沙汰な気持ちを抱えている。
  3. 夕暮れの美しい風景に心を奪われ、時間が経つのを忘れて物思いに耽っている。
  4. 一人でいる寂しさと、親友への怒りがまだ収まらず、気持ちの整理がつかずにいる。
【正解と解説】

設問1:正解 → 2

  • 1. 「苛立ち」や「焦り」は本文に直接的な記述がなく、親友との関係に悩む心情とは少しずれます。
  • 2. 「気まずい沈黙」「謝るべきなのは自分」から後悔の念が、「言葉が見つからない」から手持ち無沙汰な様子が読み取れ、最も的確です。
  • 3. 風景描写はありますが、「心を奪われ」ているのではなく、むしろ内面の葛藤に集中しています。
  • 4. 「怒り」がまだ続いているというよりは、「意地」と「後悔」の葛藤が中心です。

【設問2】本文における「僕」の心情の変化の説明として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。

  1. 親友への怒りが時間とともに薄れ、謝罪の必要性を感じながらも、結局プライドを優先して行動できずにいる。
  2. 後悔の念に苛まれながらも、親友との楽しい記憶を思い出すことで心が和み、素直に謝罪する決心がついた。
  3. 最初は自分の非を認められずにいたが、バスの到着をきっかけに冷静さを取り戻し、合理的に考えて謝ることにした。
  4. 気まずい沈黙を破る方法を探していたが、良い言葉が見つからず、最終的には諦めの気持ちでメッセージを送ることにした。
【正解と解説】

設問2:正解 → 2

  • 1. 「行動できずにいる」という点が、最終的にメッセージを打つ決心をした本文の内容と矛盾します。
  • 2. 「意地が渦巻いている」状態から、イヤホンの記憶という「温かい記憶」をきっかけに「意地を張っていても」無意味だと気づき、謝罪を決意する流れを正しく説明しています。
  • 3. 「合理的」に考えたのではなく、「温かい記憶」という情緒的なきっかけで心が動いています。
  • 4. 「諦めの気持ち」ではなく、「小さな灯り」という表現から、前向きな気持ちで行動に移したことが分かります。

【設問3】本文の内容に照らして、**間違っているもの**を、次の中から一つ選べ。

  1. 「僕」は、親友との口論の原因が自分にあると自覚している。
  2. 「僕」は、親友に連絡を取ろうかしまいか、ためらう気持ちを抱えている。
  3. 「僕」は、親友との楽しい思い出が、意地を張る心を溶かすきっかけになったと感じている。
  4. 「僕」は、バスが来たことで思考が中断され、結局親友に連絡するのをやめてしまった。
【正解と解説】

設問3:正解 → 4

  • 1. 「謝るべきなのは自分だと分かっている」という記述と一致します。
  • 2. 「スマートフォンを何度も取り出そうとしては、やめた」という記述と一致します。
  • 3. 「温かい記憶が、冷え切った心に小さな灯りをともすようだった」という記述と一致します。
  • 4. 本文の最後で「スマートフォンを取り出し、『ごめん』とだけ打ち始めた」とあるため、連絡をやめてしまったという記述は明確な間違いです。

【設問4】本文の表現に関する説明として、**適当でないもの**を、次の中から一つ選べ。

  1. 「ひんやりとした風」という感覚的な表現が、「僕」の心細い気持ちと呼応している。
  2. 「小さな灯り」という比喩は、親友との温かい記憶によって「僕」の心に希望が生まれたことを示唆している。
  3. 時間の経過とともに空の色が移り変わる情景描写が、「僕」の心境の変化を象徴している。
  4. 「『ごめん』とだけ打ち始めた」という行動から、「僕」がまだ完全に納得しておらず、不本意ながら謝罪していることが読み取れる。
【正解と解説】

設問4:正解 → 4

  • 1. 風景描写と心情を重ね合わせる、物語文の典型的な表現技法です。
  • 2. 「冷え切った心」と「小さな灯り」の対比が、心の雪解けや希望を表していると解釈するのが自然です。
  • 3. 夕暮れから夜へという景色の変化が、葛藤から解決へと向かう「僕」の内面の変化と重なっています。
  • 4. 「意地を張っていても何も変わらない」と自覚した後の行動であり、不本意ではなく、素直になるための勇気ある一歩と捉えるのが妥当です。「ごめん」という短い言葉に、ためらいを乗り越えた誠実さが込められています。

語句説明:
些細(ささい):ごくわずかで、重要でないこと。
意地(いじ):自分の考えを押し通そうとする、かたくなな気持ち。
手持ち無沙汰(てもちぶさた):することがなくて、時間を持て余している様子。

レベル:大学入学共通テスト対策|問題番号:1