古文対策問題 051(枕草子「宮中の春の朝」長文)
【本文】
春の朝、御殿にさし入る光、やうやう白みゆく空に、桜の花いとあざやかに咲きたるを、清少納言、御簾の内より、うち眺め給ふ。
うららかなる日ざしに、殿上人ども、庭に出でて、花のもとに集ひぬ。御前にて和歌を詠み、笛の音もかすかに聞こゆ。女房たちも、おのおの花の枝折りて、友と見せあひ、袖を取り交はしながら笑ひさざめきぬ。
その折しも、院より勅使参りて、「今年の春、桜の盛り、特にめでたく候ふ」と仰せらる。清少納言、御前に進み出でて、花の美しさと宮中のうるわしきありさまを奏し、院の御心にも深くかなひけり。
夕つ方になりて、空いと静かに、淡き霞の中に花はほのかに見ゆる。殿上人も女房たちも、日がな一日花を愛で、和歌に興じ、春の一日を惜しみて帰りぬ。
清少納言、花の名残惜しく、ひとり御殿の縁に立ちて、「明日はいかなる春のけしき見えむ」と、心に思ひつつ、静かに夜の帷(とばり)の下りゆくを眺めけり。
【現代語訳】
春の朝、御殿に差し込む光が、だんだんと明るくなっていく空のもと、桜の花が鮮やかに咲いているのを、清少納言は御簾の内側から眺めていた。
穏やかな日差しの中、殿上人たちは庭に出て、桜のもとに集まる。御前で和歌を詠み、笛の音もかすかに聞こえてくる。女房たちも、それぞれ花の枝を折って友人と見せ合い、袖を取り交わしながら笑いさざめいていた。
そのとき、院から勅使がやってきて「今年の春、桜の盛りがとても見事です」と伝える。清少納言は御前に進み出て、花の美しさと宮中の素晴らしい様子を申し上げ、院のお気持ちにも深くかなった。
夕方になると、空がとても静かになり、淡い霞の中に桜の花がほのかに見える。殿上人も女房たちも、一日中花を楽しみ、和歌を詠みながら、春の一日を惜しんで帰っていった。
清少納言は、桜の名残を惜しみ、ひとり御殿の縁に立って「明日はどのような春の景色が見えるだろう」と心に思いながら、静かに夜の帳(とばり)が下りていくのを眺めていた。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:清少納言。平安時代中期の女流随筆家。
- 御簾:御殿などで内と外を隔てるすだれ。
- 殿上人:高貴な身分の男性。貴族。
- 院:上皇(天皇の退位後の尊称)。
- 勅使:天皇・上皇の使い。
- 帷(とばり):とばり。夜の帳(とばり)、夜の幕。
重要古語・語句:
- うららかなる:穏やかな。
- さざめく:賑やかに話す、ざわめく。
- ありさま:様子、ありよう。
- 名残惜しく:別れを惜しむ。
- けしき:景色、様子。
【設問】
【問1】本文の冒頭、「春の朝、御殿にさし入る光…桜の花いとあざやかに咲きたる」とあるが、この情景から受ける印象として最も適切なものを一つ選べ。
- 静かで清らかな春の始まりを感じる
- 荒れ果てた庭の様子を描いている
- 秋の紅葉を詠んでいる
- 冬の雪景色を強調している
- 都会の喧騒を表現している
【問1 正解と解説】
正解:1
御殿に差し込むやわらかな光と、鮮やかな桜の花が調和し、静かで清らかな春の情景が印象的に描かれている。
【問2】昼の場面で、殿上人や女房たちの行動として適切なものを一つ選べ。
- 庭で和歌を詠み、花の枝を友と見せ合って楽しんだ
- 仏道修行に励んだ
- 狩りに出かけた
- 笛の音にあわせて踊った
- 市で買い物をした
【問2 正解と解説】
正解:1
「御前にて和歌を詠み」「花の枝折りて、友と見せあひ」など、花見と和歌、交流が昼の主題である。
【問3】院(上皇)からの勅使が伝えたこと、およびそのときの清少納言の対応として正しいものを一つ選べ。
- 桜の盛りの美しさを伝えられ、清少納言は宮中の様子を院に奏上した
- 秋の紅葉の盛りを伝えられた
- 大雨による被害を報告した
- 新しい法令の公布を伝えた
- 御殿の修理を命じられた
【問3 正解と解説】
正解:1
勅使は「桜の盛りが見事」と伝え、清少納言はその美しさと宮中のありさまを院に申し上げた、とある。
【問4】本文の最後、清少納言が「明日はいかなる春のけしき見えむ」と思いながら眺めていた情景・心情に最も近いものを一つ選べ。
- 春の美しさが明日も続くことを期待しつつ、静かな余韻に浸る心情
- 明日も忙しい仕事に追われることを憂う心情
- 桜の花がすぐに散ることを心配する心情
- 夜の闇を恐れる心情
- 宴が終わらないことを願う心情
【問4 正解と解説】
正解:1
名残惜しさと明日への期待、春の余韻に静かに浸る清少納言の心情が最後に表現されている。